2017 Fiscal Year Research-status Report
腎臓を模倣した膜晶析装置を用いた尿路結石の発生機構および抑制機構の解明
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16K14464
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小堀 深 早稲田大学, 理工学術院, 専任講師 (70329093)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 尿路結石 / 膜濃縮装置 / 腎臓 / RO膜 / クエン酸 / イオンクロマトグラフィー |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までに、装置の検討および条件の探索を終えた。今年度は、添加物の影響の検討を行った。クエン酸は、尿中に含まれている物質のひとつであり、生体内回路の中間物である。クエン酸は主にレモンなどの食物に含まれており、尿路結石の阻害作用を示すことが知られている。クエン酸によるシュウ酸カルシウム結晶の析出抑制は、キレート作用による阻害や、ク溶性によるシュウ酸カルシウム結晶の溶解度上昇などに起因することが予想された。ク溶性とは、クエン酸イオンを含む溶液に物質が溶解しやすくなる現象である。 生体の腎臓を模したRO膜による濃縮装置を用い、シュウ酸カルシウムの結晶化に与えるクエン酸添加の影響を観察および、濃縮時のシュウ酸イオン濃度の時間変化に関する検討を行った。その結果、クエン酸イオン無添加系において、析出するシュウ酸カルシウム結晶は全て楔形であることが分かった。また、クエン酸イオン添加系において、析出するシュウ酸カルシウム結晶は大粒径の八面体型と小粒径の卵円形の二種類が観察された。このとき、シュウ酸カルシウム結晶の核化開始点が遅延する現象も見られた。これらより、シュウ酸カルシウム結晶の結晶化が抑制される現象を再現できた。イオンクロマトグラフィーによるシュウ酸イオン濃度測定において、クエン酸イオン無添加系および一部のクエン酸イオン添加系で、シュウ酸イオン濃度の低下が観察された。クエン酸イオン添加量が多いほど、シュウ酸イオンの過飽和状態が維持され、クエン酸イオンの存在が、カルシウムイオンとシュウ酸イオンの結合を阻止する可能性を確認した。 以上の結果より、シュウ酸カルシウム結晶の析出挙動に与えるクエン酸イオン添加の関連性を調べることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の基盤となる装置の検討および条件の探索は終了した。また、尿路結石の主たる成分であるシュウ酸カルシウムからなる結晶を膜面上に再現することができた。さらに、共存物質の影響を調べるため、クエン酸を添加した影響を見ることができた。一方で、共存物質としてクエン酸のみの検討で終わったため、その他の共存物質の影響も早期に観察する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、本研究における膜濃縮晶析モデルは回分装置であり、腎臓での濃縮を模した濃縮度まで膜濃縮し、得られる結晶の観察が可能である。しかし、さらに大きく結晶成長させる場合や、それに続く凝集形態の確認には、回分装置では観察が困難となってくる。そこで、リザーバーを用いた試料溶液の連続供給を可能とした実験系を検討するなど、膜濃縮晶析装置の改良、および操作条件の検討を進める予定である。膜濃縮晶析装置の改良を進めることで、生体における様々な晶析現象の検討に幅広く応用することができる膜濃縮装置の構築を目指す。 つぎに、減圧式の膜濃縮晶析装置の構築も進めていく。減圧式の膜濃縮とは、加圧式のように溶液側から圧力をかけるのではなく、分離膜の下部から減圧することによって、大気圧との圧力差を駆動力として濾過による濃縮を行う手法である。この手法において溶液側は開放系となり、溶液のサンプリングを容易に行うことができるため、溶液中のイオン濃度変化を経時的に測定することが可能となる。加圧式の膜濃縮晶析装置は溶液側が密閉系であるため、溶液の経時的なサンプリングが困難である。また加圧による溶質の溶解度変化を考慮する必要性も生じてしまう。加圧式の有するこれらの欠点を解消するためにも、減圧式も検討は有意義であるといえる。 また、尿路結石の中でシュウ酸カルシウム結石の次に頻発する尿酸結石についても検討対象とする。尿酸結石とは、高尿酸血症の患者において原尿中の尿酸濃度が上昇し、腎臓内で析出した結石が尿管を詰まらせることで発症する。尿路結石は主にシュウ酸カルシウム結石だが、尿酸結石を主成分とする尿路結石も多く見られる。試料溶液の組成を高尿酸血症の患者に模すことにより、尿酸結石を再現することが可能である。
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Causes of Carryover |
研究の推移により、陰圧を利用した連続膜濃縮ではなく、共存物質の影響を先に検討したため、機器購入が次年度となった。
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