2016 Fiscal Year Research-status Report
新規アミド結合反応の開発とペプチド性機能分子の創出
Project/Area Number |
16K14495
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
木野 邦器 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60318764)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | バイオテクノロジー / 遺伝子 / 酵素 / 生体分子 / ペプチド / アミド化合物 / 脂肪酸アミド |
Outline of Annual Research Achievements |
微生物は非リボソーム型ペプチド合成酵素(NRPS)システムを利用して多様なペプチド性抗生物質を産生している。このNRPSのアデニル化ドメイン(Aドメイン)を用いたL-アミノ酸のアデニル化反応にアミン等の求核剤を作用させるだけで、アミド化合物の合成が可能であることを見出していたが、Aドメインの基質特異性に加え、求核剤となる化合物の多様性を確認することができた。具体的には、チロシジン合成酵素のAドメイン(TycA-A)を利用する新規アミド結合反応によって、Trp-Proをはじめ数種類のXaa-Proの効率的な合成が可能になった。また、反応液を加熱する簡便な方法でジケトピペラジンであるcyclo(Trp-Pro)も合成できた。一方、新規ポリリン酸キナーゼ(class III PPK2)を用いるATPの再生系をXaa-Pro合成系に導入することで、AMPを初発基質とする実用化に向けた基本プロセスを構築することができた。さらに、低収量の原因が反応副生物であるピロリン酸の蓄積にあると推察し、ピロリン酸分解活性を有するピロフォスファターゼの添加によって10倍の反応速度向上に成功した。 一方、脂肪酸をアデニル化する酵素を用いることで、脂肪酸アミドの合成が可能であることを予想し、Mycobacterium smegmatis mc2 155株由来のFadD26をfatty acyl-AMP ligaseとして検討を行った。独自に開発したヒドロキシルアミンを用いる比色分析法によって、炭素数が6~12の中長鎖脂肪酸及びオレイン酸やリノレン酸といった不飽和脂肪酸など幅広く基質となることを明らかにした。続いて、FadD26を用いて数種類の脂肪酸を基質とし、求核剤としてL体およびD体のプロリン、線状アミンおよび環状アミンなどを検討したところ、多くの組み合わせで目的の脂肪酸アミドの合成が可能であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
NRPSのアデニル化ドメイン(Aドメイン)による基質アミノ酸のアデニル化と求核剤を用いるシンプルなアミド化合物の合成法が、簡便で汎用性のあるプロセスであることを基質認識の異なる数種類のAドメインならびに多様な求核剤が利用できることで実証した。しかも、アミド結合が形成される求核置換反応がケミカルに起きていることは、L体およびD体のアミノ酸が求核剤として同等に利用可能であることからも裏付けることができ、酵素反応と化学反応を融合させた新たな合成プロセスとして提案することができた。また、AMP生成型ATP消費反応における新規ポリリン酸キナーゼによるAMPからATPへの再生系の構築と、上記アミド合成反応での有効性、ならびに副生成物であるピロリン酸の反応系からの除去が収量向上に有効であることなど、実生産プロセス構築にとって有益な知見を計画以上に得ることができた。 一方、本反応プロセスは、脂肪酸アデニル化酵素を利用した検討により、界面活性剤として有用な脂肪酸アミドの合成にも展開可能であることを示すことができた。しかも、NRPSの場合と同様、Aドメインの単独発現によって広い基質特異性を有することを初めて明らかにすることができるようになった。したがって、本反応プロセスを利用することで、多様なアミド化合物の合成が可能になることを明らかにすることができた。これらの結果は、我々が開発したアデニル化酵素と求核剤を組み合わせたハイブリッド型新規アミド結合形成反応の一般性と有用性を示すものである。
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Strategy for Future Research Activity |
NRPSのアデニル化ドメイン(Aドメイン)の中でもペプチド性抗生物質であるチロシジンの合成酵素由来のAドメイン(TycA-A)は、本来の基質であるL-Pheのほかに、5種類のアミノ酸(L-Trp、L-Tyr、L-Met、L-Leu、L-Val)を基質として認識し、さらに興味深いことにそれらアミノ酸のD-アミノ酸も同様に基質とすることを見出した。本アミド結合形成反応の特長を活かすと、L,L-型ジペプチドに加え、L,D-型、D,L-型、D,D-型のジペプチドの合成が可能になる。とくにD,D-型ジペプチドは、自然界に多いL,L-型ジペプチドの機能比較対照として大きな需要が見込まれ、キラリティ混合型ジペプチドの効率的な合成法の開発はこれまでに報告例は無い。そこで、TycA-A以外にD-アミノ酸をアデニル化するAドメインの探索を推進し、主に任意のD,D-型ジペプチドの合成法を開発する。自然界におけるキラリティ認識メカニズムの解析や、D-, L-アミノ酸の両方を認識する酵素の特性解析も検討してみたい。さらに、D-アミノ酸を含むジペプチドは分解を受けにくいと思われるので、ATP添加の必要のない菌体反応系や発酵法による生産の可能性を探る。
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Research Products
(14 results)