2016 Fiscal Year Research-status Report
大規模計測と光操作の融合による海馬ニューロンの神経相関と投射構造の解明
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16K14554
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々木 拓哉 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (70741031)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 海馬 / 光遺伝学 / マルチユニット記録 / 場所細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、成体動物からテトロードを用いて、数十個以上の神経細胞を同時記録するマルチユニット計測法と、チャネルロドプシン2などの光感受性機能分子を用いた光操作法を融合させ、記録中の個々のスパイク活動が、どのような細胞から生じたか対応付ける方法の開発を目指している。本法では、注目する細胞種(特定のマーカー分子を発現した抑制性細胞など)に光感受性機能分子を発現させ、光照射によりこの細胞群の発火を操作する。これにより、記録している細胞集団の中から、どの細胞が注目の細胞群であるか同定することができる。今年度は同技術の開発・改良に取り組み、その成果として、光刺激に応答する細胞活動の記録に成功した。研究提案の最も基礎となる実験技術の構築ができたと考えている。今後は、この方法を利用して、個々の細胞間伝達が、動物の行動や内的活動によって、どれほど動的に変化するか理解することを目指す。本方法論は、脳の中での(1)特定の領域に投射をもつ細胞集団、(2)特定の条件で活動依存的にChR2を発現した細胞集団、(3)神経幹細胞(移植細胞)由来の細胞集団、などを同定でき、これらの細胞が実際にin vivo脳においてどのような活動を示すか調べることができる。マルチユニット計測用電極ドライブと光ファイバーを融合した新しい実験材料を作製する点も重要である。これを普及させていけば、光科学的技術を利用した細胞計測法の発展に貢献できる。今までのような解剖学的・生理学的アプローチとは違う側面から、in vivo脳の情報伝達の真の意義や動態特性を追究できる期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、実験機器のセットアップと電極づくりの検討が終了し、方法論が確立できたということで、ほぼ当初の予定通りに研究が進行しているといえる。まずはすべての実験装置を購入し、in vivoマルチユニット記録法が確立できた。その後、従来の光遺伝学的手法にならい、チャネルロドプシン2を発現するウイルスベクターAAV5-CaMKII-ChR2をラットの背側海馬に注入した。ラットでの光遺伝学的ツールの実績は少ないが、本研究では発現を確認することができた。このウイルス注入と同時に、個々のテトロード電極を独立に操作できる装置(マイクロドライブ)と、光ファイバーを海馬に刺入した。ここでは、電極と干渉しない光ファイバーの埋め込み座標や電極形状を検討した。これまでのところ、16本のテトロード電極と光ファイバーの併用法を確立している。電極を3週間程度かけて徐々に海馬の錐体細胞層まで到達させ、ChR2を発現した領域に光照射を行ったところ、光刺激のタイミングにロックした神経応答が見られた。ここで応答しているユニット(細胞)は、ChR2を発現した細胞であると推測される。ここまでの技術確立で、ようやく世界水準の生理学計測法に到達したと考えている。 現在予備検討として、まずは、光刺激応答の潜時と信頼性に基づいて、記録された全細胞のうち、ChR2を発現していた細胞集団を同定し、これらすべての細胞について、細胞間の機能的結合の有無の相互相関解析を始めている。解析では、一部の細胞集団で高い相関が観察されており、これは機能的結合の存在を示唆するものと考えている。こうした解析を繰り返せば、各行動の状態について、機能的結合マップを作成できる。
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Strategy for Future Research Activity |
おそらく大脳皮質では、ごく一部のシナプスだけが顕著に強い伝達を担っており、大脳皮質回路の中で機能的に大きな影響をもっていると考えている。このようなアイデアを検証していくため、今後の研究では、各細胞間の機能的結合を記述することで、in vivo脳での情報伝達を理解していくことを目指している。こうした動的変化の特性は細胞種を考慮して記述する必要があるが、これは光遺伝学的手法により解決できる。また、大脳皮質の神経細胞間の情報伝達は常に一定ではなく、外界からの感覚刺激や神経調節因子、周辺の回路状態に大きく依存する。このような機能的ネットワーク内の個々の細胞間伝達が、動物の行動や内的活動と関連して、どれほど動的に変化するか理解することを目指す。個々の機能的結合の時間変化を追跡することで、状態依存的な回路活動を構成する細胞間伝達の詳細を把握することができると期待している。 具体的な実験としては、テトロード電極と光ファイバーを脳に埋め込んだラットについて、四角や丸い箱の中を自由に探索させた際に生じる場所選択的な海馬神経細胞や抑制性細胞の活動パターンと、その後の休憩中や睡眠中に記録される大規模な同期活動パターンに特に着目する。このような神経活動はそれぞれ、探索行動中の記憶の獲得過程、およびその後の記憶の固定過程に相当すると考えられている現象である。光遺伝学的手法との融合により、得られた細胞群の神経発火の中から、注目の細胞集団の活動のみを抽出して、さらにこれまでに予備検討を進めている相互相関解析を用いることで、各動物行動状態における、機能的結合マップを作成し、脳回路動態の変遷を考察することを目指す。
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Research Products
(10 results)