2016 Fiscal Year Research-status Report
脳部位特異的リバースシナプトロジーによるマウス社会行動の解析
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16K14580
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Research Institution | Osaka Yukioka College of Health Science |
Principal Investigator |
塩坂 貞夫 大阪行岡医療大学, 医療学部, 教授 (90127233)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 成孝 旭川医科大学, 医学部, 教授 (20230740)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | KLK8 / ニューロプシン / Neuregurin1 / パルブアルブミン / γ帯域脳波 / 認知症 / 統合失調症 / 双極障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では脳疾患関連栄養因子、neuregurin1(NRG1)の特異的活性化因子であるKLK8(neuropsin)のシナプス形成能(リバースシナプトロジー)について、各種疾患モデル動物の障害回復が可能かどうかについて検討する。KLK8欠損マウスにおいて、NRG1活性ドメインを両側微量注入すればその部位のシナプスのみを回復させ、動物に生じた長期増強異常を回復させることができる。したがって、この回復によって欠損マウスに追加される行動パターンは、この脳部位のシナプス機能に帰することができる。 リワイヤリング(回路再建)は電気生理学的に観察することが可能である。そこで、興奮性およびパルブアルブミン抑制性ニューロンのネットワークによって生じるγオシレーションをノックアウト動物と野生型動物を用いて測定することとした。KLK8欠損マウスの行動・生理異常はリコンビナントKLK8の注入だけでなく、そのプロダクトであるNRG1活性ドメインの投与によってレスキューされることであり、このことからKLK8の効果はNRG1-ErbB4を介しており、さらにGABAニューロンを介していることが証明されている (Nature,473,372-377,2011;J Neurosci 32,12657-72,2012)。そこで、カイニン酸投与によって、野生型動物の海馬の脳波を観察すると明瞭なγオシレーションを観察することができた。ノックアウト動物においてはこのピーク(35-37Hz)が消失し、すなわちネットワークの障害によってE-Iバランスの異常が観察された。この異常を回復させるため、ノックアウト動物両側海馬にNRG1活性ドメインを注入したところ、γオシレーションの回復を観察することができ、すなわち回路の回復を示唆した。今後は、これをさらに形態学によってシナプスの回復について確認することとする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
失われたシナプスを可逆的に再形成させることにより、それによって生ずる行動を知ることであり、これまでの脳破壊実験とは異なる成果が得られる可能性がある。再形成によって生ずるネットワークと生ずる行動パターンを結びつけることによって特定の行動がどの脳部位の抑制性シナプスから起こってくるのか、どのネットワークのE-Iバランスによって形成されるのかを理解することができる。こうした考え方により、これまでの破壊実験の結果や、多くの分子の機能不全の結果起こる不可逆な機能欠損でなく、脳の特定シナプス形成とリワイアリングによって行動パターンや機能の追加(回復)に重点を置く。このことはアルツハイマー型認知症、統合失調症、双極障害など不治の病とされている疾患に対する治療法の新たなアプローチとなるに違いない。 形態学および動物行動学的な研究は進行中である。しかし、電気生理学によってγオシレーションを測定すると、KLK8KO動物ではこれが消失し、NRG1177-246を脳室内に注入すると回復させることができる。この成果をTranslational Psychiatry誌に掲載することができた。 一方で、海外の競合する研究グループは、驚くべき成果をもたらした。彼らによるとアルツハイマーモデル動物および患者死後脳ではKLK8のタンパク量を測定したところ、KLKタンパク質はアルツハイマー病の重篤度に従って数倍程度蓄積し、βアミロイドの増加、および記憶障害などを引き起こした。モデル動物ではKLK8抗体(我々が開発し、MBL株式会社で販売中)を脳内投与するとβアミロイドを低下させ、アミロイド沈着も抑えると同時に、行動面での回復が見られた。今後はこれらのデータも踏まえ、回路の再建にKLK8が真にかかわるかどうかを検討しなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
最近では特に諸外国においてKLK8の研究が盛んにおこなわれるようになり、競合相手も数多く出現するようになったが、当初計画を変更せずさらに推し進める予定である。 研究計画ではKLK8欠損動物の大脳皮質前頭前野、帯状回、海馬にリコンビナントKLK8、NRG1活性ドメインを両側注入して、その後のシナプス形成を免疫組織化学、トレーサ法、cFOS, Arc染色および社会性行動試験等を行うことによって、その部位の抑制性ニューロンが錐体細胞にリワイアリングするかどうかを検討する。社会行動の前後に抗体によるニューロプシン中和、リコンビナントニューロプシン添加によって、可逆的なシナプスの解離と形成をおこなう。これらについては鋭意進行中である。 KLK8欠損マウスへのNRG1177-246の注入(脳室内)では生理機能の回復を確認することができたので、脳実質内への注入と、リコンビナントKLK8の注入との差異を確認することと、さらにこれらの形態学的な変化についても検討していく。しかしながら、目標はLTPによって生ずるシナプス、KLK8の障害(KO動物や抗体、阻害剤の局所注入など)によって失われるシナプス、およびNRG1177-246の注入によっておこる再建の結果、生ずるシナプスの3者がほぼ同じ脳領域に回復されるのか、別の部位に投射されるままなのかどうかが問題である。つまり機能的回復と形態学的回復が関連しあっているのかどうかを追求しなければならない。これについては達成するための技術もまだないが、技術の開発も含めて今後検討してゆく。
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