2016 Fiscal Year Research-status Report
器官再生における各組織幹細胞の普遍的活性化機構の解析
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16K14590
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
深澤 太郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (10565774)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 器官再生 / アフリカツメガエル |
Outline of Annual Research Achievements |
アフリカツメガエル幼生(オタマジャクシ)尾の再生は、切断した際に脊髄・脊索・筋を含む尾を再生するという高い再生能を示す。幼生尾再生は、各組織中に存在する組織幹細胞が尾の切断により各々活性化され、(細胞運命が拘束された)未分化細胞を生み出し、これらが分化して各々の組織を再形成する様式であるとされている。本研究は、尾再生時における各組織幹細胞の活性化もしくは活性化状態の維持に、組織の種類を問わない普遍的な機構があるとの作業仮説をたて、また当研究室で同定された尾再生時の再生芽(その後再生尾を形成する増殖細胞集団)の増殖細胞に選択的に発現しているinterleukin-11(il-11)がこの機構に関わると考え研究を行っている。本研究期間では、Crispr/Cas9法を用いてil-11モザイクノックアウト個体(以降、il-11ノックダウン(KD)個体)を作出しil-11の尾再生への関与を解析した。現在までに、il-11をKDすると尾再生が阻害されること、これは複数組織の未分化細胞の誘導・維持の障害に因ること、またil-11を強制発現させると複数組織の未分化細胞が誘導されることを見出した。幼生尾再生において複数種の組織幹細胞がil-11というたった1種類の因子により活性化と未分化状態の維持がなされることを強く示唆する結果であり、先に述べた作業仮説が証明されつつある。本結果を含む内容の論文をNature Comm.誌に投稿したところ査読者より高い評価を得て、現在リバイス中である。また、関連論文が1報Dev. Growth Differ.に受理されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
アフリカツメガエル幼生尾再生において再生芽増殖細胞にて選択的に発現するil-11の再生への関与について解析を行った。これまでに以下のような結果を得ている。il-11 KDにより尾の再生が阻害されること、このときil-11を強制発現させるとこの表現型がレスキューされることからil-11が尾再生に必要であることを示した。次に、il-11が再生のどの過程に関わるかを探るため、野生型個体とil-11 KD個体とで尾切断後の発現遺伝子の違いをRNA-seqで解析したところ、il-11 KD個体では脊髄・脊索・筋の未分化細胞マーカー遺伝子の発現低下が見られ、これよりil-11は再生が進行する際にその後再生組織を形成することになる未分化細胞集団の維持に関与することが考えられた。さらに、尾切断時の未分化細胞の誘導にも関わるかを調べるため、尾を切断していない個体においてil-11を強制発現させたところ、前述の未分化細胞マーカー遺伝子の発現誘導が見られた。これは尾切断により誘導される他の因子なしにil-11単独で各組織の未分化細胞が誘導されることを示し、再生の最初期過程の人為的再現に成功したことを意味する。 また、RNA-seqの結果、以前当研究室で尾再生時に高発現する遺伝子として同定されていたXenopus Neuronal pentraxin 1(XNP1)もil-11 KD群で発現低下が見られていたため、詳細に発現解析を行ったところ、脊髄におけるXNP1の発現と再生能との間に相関関係を認めた。この内容をまとめた論文はDev. Growth Differ.に受理された。 これらの点を踏まえ、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
il-11が尾再生における組織幹細胞の活性化・未分化状態の維持に関わることが判ったため、今後はIL-11を受容する細胞の解析を進める。現時点ではIL-11は各組織幹細胞に共通して働く活性化因子でありすなわちこれらの幹細胞はIL-11受容体を発現(表出)しているという作業仮説を立てており、これを検証する。 まず、IL-11を受容する細胞の分布を検討する。IL-11受容体はIL-11receptor α(IL-11Rα)とGP130(IL-6ファミリーの共通受容体)とのヘテロ4量体であるため、幼生尾再生過程におけるil-11raの発現細胞の分布を切片in situ hybridizationにより観察する。 次に、il-11ra発現細胞の再生尾形成への寄与を解析する。Crispr/Cas9法でil-11raのモザイクノックアウト個体を作成、尾切断後に形成される再生尾組織にil-11raノックアウト(KO)細胞が存在するか検討する。各組織幹細胞においてil-11raが発現しておりIL-11を受容すると増殖するという仮説通りの場合、il-11ra KO細胞はIL-11に応答せず増殖しないためこうした細胞は再生尾の形成に寄与せず、結果再生尾組織にはil-11ra KO細胞は存在しないと考えられる。 上記の結果を得たら、IL-11Rα発現(表出)細胞の幹細胞性を検討する。尾再生芽より単離したIL-11Rα発現(表出)細胞を別個体へ移植し尾切断・再生を繰り返したとき、移植細胞由来の組織が再形成され続けることを観察する。本研究期間内では、IL-11Rα発現(表出)細胞単離のための抗IL-11Rα抗体の作成を始める。
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Causes of Carryover |
本研究期間中になされた研究結果をまとめた論文を平成28年度中にNature Communicationへ投稿したが、リバイス実験を実施することになり掲載料の支払いが次年度へ持ち越された代わりに次年度に行う予定であった実験を一部前倒しして行ったため、その差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
主として論文掲載料と、そのほかは当初の計画通りinterleukin-11 receptor alphaの発現解析を行う。
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Research Products
(2 results)