2016 Fiscal Year Research-status Report
紡錘体上で機能するモーター分子の発現異常による染色体不安定性の成立の解析
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16K14604
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 耕三 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (00304452)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 癌 / 細胞・組織 / 染色体不安定性 |
Outline of Annual Research Achievements |
がんの大部分では染色体の異常が認められ、これは染色体の不均等分配が高頻度に起こること(染色体不安定性)に起因する。しかし染色体分配の重度の異常は致死的であるため、がんと関連する染色体不安定性は細胞の生存を許容する範囲の異常によって起こると考えられる。本研究は、紡錘体上で染色体の動態を制御するモーター分子に着目し、その発現異常と染色体不安定性およびがん化との関連を明らかにすることを目的とする。そのために紡錘体上のモーター分子の発現を変化させた際の染色体分配の異常を、特定の染色体の動態を追跡する手法などにより解析する。平成28年度は以下のような成果が得られた。 1.紡錘体上で機能するモーター分子の染色体分配への関与の解析 紡錘体上に存在するモーター分子(MCAK, KIF4A, HSET, Kid)およびダイニン関連分子(Zw10, p150)をノックダウンし、分裂期の細胞における紡錘体中央への染色体整列の異常を調べた。その結果、いずれにおいても整列異常自体は顕著ではなかったが、整列に要する時間が有意に延長することがわかった。同様の知見がMCAK, HSET, Kidを過剰発現させた場合にも得られた。 2.紡錘体上で機能するモーター分子の異常による染色体不安定性の出現の解析 1.で検討したモーター分子・ダイニン関連分子をノックダウンあるいは過剰発現する条件で、染色体不安定性の出現をa)分裂後期におけるlagging chromosomeの出現頻度、b)間期における微小核の出現頻度、c) chromosome spreadによる染色体数のカウント、により検討した。その結果、lagging chromosome・微小核を持つ細胞が有意に増加し、また染色体数が異常な細胞の増加が認められ、染色体不安定性が出現することがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
紡錘体上で機能するモーター分子の染色体分配への関与の解析に関しては、検討したモーター分子・ダイニン関連分子のノックダウンで染色体整列に要する時間が延長することがわかった。このことは、これらのモーター分子が整列自体に必須ではないものの、効率的な染色体整列に必要であることを示唆していると考えられる。また同様の知見がモーター分子の過剰発現でも得られたことは、モーター分子間の発現量のバランスが重要であることを示唆しているのではないかと考えられる。 一方紡錘体上で機能するモーター分子の異常による染色体不安定性の出現の解析については、検討したモーター分子・ダイニン関連分子のノックダウン・過剰発現で染色体不安定性が出現することが確かめられた。このことは、染色体整列自体に異常がなくても、その効率性が損なわれると染色体分配異常を生じやすくなることを示している。これはがんで見られる細胞生存を許容する範囲の染色体不安定性の成因と関連するのではないかと考えられ、さらに検討を進めていく予定である。 以上より本研究はおおむね順調に進捗していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.紡錘体上で機能するモーター分子の染色体分配への関与の解析 平成28年度の検討を継続し、紡錘体上で機能するモーター分子の染色体分配への関与を網羅的に明らかにする。 2.紡錘体上で機能するモーター分子の異常による染色体不安定性の出現の解析 モーター分子がどのようにして分裂期の進行自体には重大な影響を及ぼさずに染色体不安定性をひき起こすのかを明らかにする。ライブセルイメージングによる観察から、モーター分子の発現異常が染色体動態の異常を通じて誤ったキネトコア-微小管結合の形成につながるかどうかを検討する。さらに種々のがん細胞株において、各モーター分子の発現量と染色体不安定性の程度を比較し、発現量の異常を補正することにより染色体不安定性が改善するかどうかを調べる。 3.紡錘体上で機能するモーター分子の異常と発がんとの関連の解析 2.で明らかになった染色体不安定性を惹起する条件でモーター分子をノックダウンあるいは過剰発現させ、軟寒天培地での細胞増殖能を検討する。また染色体不安定性の出現に伴って細胞老化が誘導されるかどうかを調べる。
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Causes of Carryover |
論文作成の際の英文校正料を平成28年度分として執行予定であったが、計画がずれこんだことにより平成29年度分の執行になったのが主な理由である。あとは消耗品費の執行に若干のずれが生じたことによる。研究の進捗状況による使用計画の大きな変更ではない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
英文校正料はすでに平成29年度分として執行済みである。消耗品費についても速やかに執行予定である。
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