2016 Fiscal Year Research-status Report
プログラム細胞老化の遺伝学的解析とそのがん制御への応用
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16K14606
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井垣 達吏 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (00467648)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 細胞老化 / がん / SASP / ショウジョウバエ / 遺伝学 / 形態形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞老化現象は、がんの発生・進展を正にも負にも制御しうる、がん制御の鍵因子の一つと考えられている。研究代表者らはこれまで、ショウジョウバエをモデル生物として用い、無脊椎動物においても細胞老化現象とそれに伴うSASP(老化関連分泌)が存在することを発見して、ショウジョウバエにおける細胞老化マーカーやその検出法を見いだしてきた。また、ショウジョウバエ翅原基の正常発生過程において特定の時期・領域で細胞老化を起こす細胞集団(プログラム老化細胞集団)の存在を見いだした。そこで本研究では、ショウジョウバエ遺伝学を駆使し、プログラム細胞老化の誘発機構とその生理的役割、さらには細胞老化の人為的制御法とそのがん制御への応用手段の開発を目指す。本研究の予備的段階において、ショウジョウバエ翅原基で起こるプログラム細胞老化がHippo経路のエフェクター分子(転写共役因子)Ykiの活性化により完全に抑制されることを見いだしている。そこで平成28年度は、まずYkiの標的遺伝子の中からプログラム細胞老化を抑制する責任遺伝子を探索した。その結果、Ykiの標的因子の1つWg(Wntホモログ)の異所的な発現誘導によりプログラム細胞老化が完全に抑制されることを見いだした。また、Ykiによる細胞老化の阻害にはWgシグナルの標的転写因子dTCFが必須であることがわかった。さらに、Wgシグナルを発生過程の翅原基で異所的に活性化させてプログラム細胞老化を抑制すると、翅の形態形成に異常が生じることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、発生中のショウジョウバエ翅原基において起こるプログラム細胞老化の誘発機構とその生理的役割、さらには細胞老化の人為的制御法とそのがん制御への応用手段の開発を目指すものである。これまでに、このプログラム細胞老化を人為的に阻害しうるシグナル伝達として、Yki-Wg-dTCF経路を見いだした。さらに、この経路を異所的に活性化することで翅原基のプログラム細胞老化を抑制すると、成虫において翅の形態形成異常が認められることを明らかにした。以上の経過から、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ショウジョウバエ翅原基のプログラム細胞老化を阻害した際に起こる翅の形態形成異常の時空間的な経過とそのメカニズムを解析し、プログラム細胞老化の生理的意義を明らかにする。特に、発生過程における老化細胞の振る舞いと運命に着目しつつ、Yki-Wg-dTCF経路以外でプログラム細胞老化を阻害するシグナル経路を明らかにしてそれを利用しながら解析を進めていく。一方、発生中の翅原基でプログラム細胞老化が誘発されるメカニズムについて、すでに見いだしているRasシグナル活性化や酸化ストレス誘導に着目しながら解析を進める。
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Causes of Carryover |
平成28年度において、プログラム細胞老化を抑制するYkiの下流標的因子をRNAiスクリーニングにより探索・同定する予定であったが、当該スクリーニングを実施する前の候補スクリーニングによりWgを同定することに成功したため、当該予算を次年度のメカニズム解析の方で使用することとした。また、プログラム老化細胞において遺伝子発現制御するためのGal4ドライバーの探索・同定も予定よりもスムースに進んだため、引き続きプログラム老化細胞の振る舞い・運命の解析のために使用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
Ykiの下流標的因子のRNAiスクリーニングに使用予定であった予算を、引き続きWgシグナルによるプログラム細胞老化の抑制メカニズムの解析のために使用することで、本研究を計画通り遂行することを目指す。また、プログラム老化細胞の発生過程での振る舞い・運命を明らかにするため、タイムラプス・イメージングや経時的な免疫組織化学解析を行う。
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Research Products
(12 results)