2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K14618
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
青木 勝彦 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (80328278)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | がん / ゲノム編集 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ゲノム編集技術を利用してがん細胞の遺伝子を網羅的に破壊し、遺伝子破壊の結果として死んだ細胞由来のDNA情報から、がん細胞の生存に必須な遺伝子を明らかにすることで、がんの治療に直結する分子標的を同定することを目的としている。昨年度に実施した研究から、スモールスケールのモデル実験系においては、培養上清中に放出された死細胞由来のゲノムDNA断片を回収する方法と、そこからゲノムDNA上に存在する標的遺伝子を増幅する方法が確立できた。今年度は実際のスクリーニング規模に対応するラージスケールの試料からの精製条件を検討したが、培養上清を含む多量の試料から死細胞由来のDNAを精製することは困難であった。そこで培養上清に含まれるDNAは解析の対象から外すこととし、ディッシュから脱離した死細胞を回収し、そこからDNAを精製することで標的遺伝子をPCR法で増幅する方法を確立した。昨年度の研究で使用したモデル細胞であるA2780ADR(卵巣癌細胞株A2780のアドリアマイシン耐性株)のCas9発現クローン株を樹立し、この細胞株に対してガイドRNAのライブラリーをレンチウイルスベクターを用いて感染させた。細胞の生存に必須である遺伝子が破壊された場合にはこの時点から細胞死が誘導される。研究立案時にはこれらの生存必須遺伝子も解析対象としていたが、研究環境の制約などもあり、対象から外すこととした。ガイドRNAライブラリーを感染させたA2780ADR細胞を複数回継代することでゲノム編集が起こる時間を十分に確保し、その後にアドリアマイシンを添加した後、脱離した細胞を回収した。回収した細胞からDNAを精製し、ガイドRNAを含む領域をPCR法で増幅することに成功した。ここで増幅されたものの中には、アドリアマイシン耐性に関連する遺伝子に対応するガイドRNA配列が含まれていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度の研究により、ゲノム編集による網羅的な遺伝子破壊を誘導したA2780ADR細胞の集団から死細胞を回収し、それに含まれるDNAからガイドRNA配列を含む領域の増幅に成功した。この中にはアドリアマイシン耐性に関与する遺伝子に対するガイドRNA配列が含まれているはずであり、後は次世代シーケンサーを用いた解析を行うことで、本研究の有用性に対する判断ができると考えている。 研究が遅延している原因として、昨年度に確立したスモールスケールでのDNA精製法がラージスケールに適用できなかったことが大きい。セルフリーDNAの精製方法を基盤として実験系の構築を検討したが、多量の培養上清からDNAを回収することは困難であった。また個別の遺伝子に対するゲノム編集実験から、ガイドRNAの導入からゲノム編集が起きるまでの時間にかなりの幅があることが分かってきた。それを考慮した場合、長期間にわたって死細胞を回収する必要が生じ、ライブラリースケールの細胞を維持するための培養環境を確保することが困難であった。これらの点を考慮し、細胞培養の規模を抑えつつ分子標的候補遺伝子の検出が可能な条件を探るために時間を要した。また、医学部生の自主的な研究活動(授業時間外)に対する支援を行ったことで業務が多忙となったことも研究計画が遅延した原因としてある。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究によって、アドリアマイシン耐性のA2780ADR細胞を対象としてゲノム編集による網羅的な遺伝子破壊を行い、アドリアマイシン処理によって死んだ細胞からDNAを抽出し、それに含まれるガイドRNA配列領域の増幅に成功している。今後はこの増幅したPCR産物を次世代シーケンサーを用いて解読し、得られた情報を解析する。本研究が目指す実験系が確立できたかどうかは、MDR1等の既知のアドリアマイシン耐性遺伝子が有意差を持って検出されうるかどうかにかかっている。それらが検出できた場合には、未知の遺伝子で上位の候補として同定されたものに関しては個別に遺伝子の発現抑制を行い、アドリアマイシン耐性能との機能的な関連性を解析する。得られたガイドRNA配列群の中に特定の候補遺伝子(既知と未知を含む)が検出できなかった場合には、処理するアドリアマイシンの濃度を検討し、より多くの配列を取得できる装置を用いることを検討する。
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Causes of Carryover |
ラージスケール実験系での試料調製法の確立に時間を費やしたことで、次世代シーケンサーを用いた解析が行われなかったため、その費用が次年度使用額として生じた。本年度の研究によって実験方法の構築と試料調製は完了したことから、次年度は次世代シーケンサーを用いた解析を行う。次世代シーケンサーを用いた実験には比較的高額な試薬や解析系を構築するための計算機が必要である。次年度使用額として請求した助成金はこれらの購入に使用する。
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