2017 Fiscal Year Research-status Report
エピゲノム制御に基づくモノアレル遺伝子発現の検出と個体内遺伝的多様性の探索
Project/Area Number |
16K14644
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
阿部 訓也 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソースセンター, チームリーダー (40240915)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | モノアレル遺伝子発現 / 遺伝的モザイシズム / X染色体不活性化 / エピジェネティクス / 幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
多細胞生物を構成する個々の細胞は一部の例外を除いて、基本的に同一のゲノムを有する。しかし、哺乳類雌で見られるX染色体不活性化では、2本ある片方の染色体がランダムに不活性化されるので、実質的に哺乳類雌個体は、異なるX染色体を持つ2種類の細胞によって構成される遺伝的モザイクであると言うことができる。このモザイクパターンの有り様によって、個々の細胞、器官、個体レベルの表現型の違いが生じる可能性がある。一方、常染色体上にもランダムに不活性化されるランダムモノアレル発現遺伝子の存在が示唆されており、同様に遺伝的モザイクの要因になると考えられるが、その正確な実態は明らかにされていない。そこで、本研究では、マウスを材料に、1)常染色体上のランダムモノアレル発現遺伝子を網羅すること、2)モノアレル発現の代表的な例である、ゲノム刷り込み遺伝子発現、ランダムX染色体不活性化が発生過程の何時生じるか、3)ランダムモノアレル発現の開始は上記のゲノム刷り込み型発現、X染色体不活性化の成立とどのような関係にあるかを明らかにすることを目的とする。さらに、これらのランダムモノアレル発現遺伝子の組み合わせにより、同一のゲノムを持つ細胞の間に、どのような「遺伝的」多様性が生じるかを考察する。 着床前後では、多能性細胞のナイーブ型からプライム型への変換が起きるが、そのin vitroモデル系として、ES細胞(ナイーブ型)からEpiSC細胞(プライム型)への転換を効率よく行う実験系を確立した。H29年度は、この実験系を用いて、シングルセルRNA-Seq解析を実施し、ES細胞からEpiSC様細胞へと分化していく過程で、両者とは異なる遺伝子発現プロファイを示す細胞亜集団が出現すること、およびアレル特異的遺伝子発現解析により、各集団に属する個々の細胞のX染色体不活性化状態を決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多能性細胞のナイーブ型からプライム型への変換過程を解析するためのin vitroモデル系として、ES細胞(ナイーブ型)からEpiSC細胞(プライム型)への転換を効率よく行う実験系を確立した。H29年度は、概要に記したように、この実験系を用いて、シングルセルRNA-Seq解析を実施し、クラスター解析、偽時間解析などの情報学的解析を行った。これにより、ナイーブ-プライムへの分化ステップの詳細を明らかにし、各ステップ間で差次的遺伝子発現を示す遺伝子群を同定することに成功した。同時にアレル特異的遺伝子発現解析のための情報学的プラットフォームを構築し、これを用いてシングルセルRNA-Seqデータの解析を実施した。これにより、ランダム型X染色体不活性化の開始時期を特定することに成功した。 以上のように、RNA-Seqおよびそのデータ解析とも順調に進展しており、当初の研究計画を達成することは可能と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
アレル特異的発現を1塩基多型 (SNP)を用いて識別するために、日本産亜種マウス (MSM系統、Mus musculus molossinus)と標準系統C57BL/6(B6)の交配から得られたハイブリッド胚から樹立された雌EpiSC細胞株を材料として、①.何ら分別していないbulk細胞、②. ①より得られた単一クローンのサブEpiSC株数種、 ③. ②より得られた単一細胞 (90個程度/サブクローン)に関してRNA-Seq解析を実施した。③については、まだ例数が少ないので、より多くのシングルセルを用いて解析を行う予定。①~③の解析から得られた結果を比較し、モノアレル発現を示す遺伝子を検出し、それぞれを、a)ゲノム刷り込みを受ける遺伝子、b) clonally stable RME 遺伝子、c) dynamic RME遺伝子、というカテゴリーに分類する。すでに、RNA-Seqデータは得られており、アレル特異的発現解析の情報学的プラットフォームも構築できたので、これらを用いて、特にa)、b)のカテゴリーに属する新規遺伝子の同定を目指す。同定後は、他の手法による妥当性確認実験を行い、その後、候補遺伝子の染色体上の分布や機能上の特徴などを解析する。
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Causes of Carryover |
H29年度までの研究として、アレル特異的発現を1塩基多型 (SNP)を用いて識別するために、日本産亜種マウス (MSM系統、Mus musculus molossinus)と標準系統C57BL/6(B6)の交配から得られたハイブリッド胚から樹立された雌EpiSC細胞株を材料として、①.何ら分別していないbulk細胞、②. ①より得られた単一クローンのサブEpiSC株数種、 ③. ②より得られた単一細胞 (90個程度/サブクローン)に関してRNA-Seq解析を実施した。得られたデータを解析した結果、③については、まだ例数が少ないため、統計学的に有意なデータを得ることが困難であることが明らかになった。そこで、H30年度に、再度サンプリングを実施し、より例数を増やして解析するための研究資金を確保するため、次年度使用額が生じることとなった。
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