2016 Fiscal Year Research-status Report
遺伝子デザイン的手法によるウイルスゲノム再構築の研究
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16K14658
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
井口 義夫 帝京大学, 理工学部, 教授 (60092144)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 遺伝子デザイン / RNAファージ / ゲノム再構成 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゲノムは生物が持つすべての遺伝情報がDNAまたはRNA中に適切に配置されたもので、その構造は遺伝子発現全体(発現の量、順序および時期)を支配している。それ故、ゲノム領域の改変、並べ替え、置換などは遺伝子の発現、最終的には生物の生存に影響を与える。しかし、小さなゲノムを持つ微生物でも、そのゲノム構造あるいは遺伝子構成の必然性はまだわかっていない。ゲノム構造を理解することはその生物の成り立ちや進化を知る上で重要であるだけでなく、新たな機能を付加するあるいは有用生物を作り出すためにも不可欠なことである。それには、ゲノムを人工的に再構築してゲノム領域の機能を明らかにすることが必要である。 本研究では対象として微生物の中でもゲノムサイズの小さい大腸菌RNAファージQβを選んだ。Qβファージは約4300塩基の1本鎖RNAゲノム中に4種類の遺伝子しか持たないので、モデル・ゲノムとして扱いやすい。本研究成果は、将来、有用な人工RNAウイルス開発の基盤となる知見を提供すると考える。 本年度はQβファージの感染性cDNAプラスミドを用い、全ゲノム領域を遺伝子領域、制御領域、およびその他の領域に分けてそれぞれの領域をユニット化し、後に再結合(再構成)することを目指した。そして、ユニット化のために各領域の両端に制限酵素認識配列を設けることを試みた。現在までに、A2遺伝子、RNA複製酵素遺伝子および外被(コート)遺伝子調節領域をユニット化出来た。これにより、A2遺伝子、RNA複製酵素遺伝子を近縁ファージの遺伝子と置換して宿主域の決定、RNA複製酵素の鋳型特異性の決定に係る部位を調べることが出来る。また、次年度に予定していた外被遺伝子制御領域の改変を行なった。同制御領域を一般的なリボソーム結合配列に改変したことにより、外被遺伝子および同遺伝子制御領域のユニット化が可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はファージ遺伝子、発現制御領域のユニット化とcDNAゲノムの再構築を計画した。 ユニット化のためには遺伝子領域、調節領域の両端にユニークな制限酵素認識配列を部位特異的変異作製法により導入するが、導入した塩基配列がファージ増殖を抑制しないように注意しなければならない。ファージRNAは感染細胞中で複雑な高次構造を形成して遺伝子発現を制御する。導入した塩基配列がRNA高次構造形成を阻害すると、ファージ増殖が抑制される。QβRNA高次構造の詳細が明らかでないので、制限酵素認識配列候補を導入する度に改変cDNAの感染性ファージ産生を確認し、野生型cDNAと同程度のファージ産生をもたらす配列を採用した。この作業をくり返し、現在までにA2遺伝子、RNA複製酵素遺伝子および外被(コート)遺伝子制御領域のユニット化を行なった。現時点ではゲノム全領域のユニット化は完了しておらず、cDNAゲノムの再構築はまだ行なっていない。 一方、平成29年度に計画していた外被遺伝子制御領域の改変を本年度に前倒しした。Qβファージ外被遺伝子には一般的なリボソーム結合配列(SD配列)が無く、同遺伝子開始部位を含む上流域がリボソーム内部侵入配列(IRES)様のRNA二次構造を形成してリボソームを結合する。したがって、外被遺伝子および同遺伝子制御領域のユニット化に先立ちIRES様構造をSD配列で置き換えてこれら領域を独立させる必要があった。 また、外被遺伝子および同遺伝子制御領域ユニット化のために同遺伝子上流に制限酵素(NcoI)認識配列を導入したところ、改変cDNAは28℃で野生型cDNAの10倍以上の感染性ファージを産生した。外被遺伝子開始部位を含む上流域はRNA複製酵素結合領域でもあるので、NcoI認識配列の導入が28℃でのリボソーム/RNA複製酵素の結合を促進したと推察した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題遂行のため、今年度は前年度(平成28年度)に引き続いてゲノム領域のユニット化を継続し、全cDNA領域のユニット化を完成させる。その後、感染性cDNAゲノムの再構築を試みる。現在までのユニット化の過程では、改変cDNAは野生型cDNAと同程度の感染性ファージを産生するので、ゲノム構造改変に伴う不都合は起きていない。しかしながら、今後、制限酵素認識配列の導入に起因するファージ産生の大幅な低下が避けられない場合は、プラーク形成株(復帰変異株)の復帰変異部位を特定し、変異がユニット化を妨げないときはその変異をcDNA上に固定して作業を進める予定である。 すでにユニット化を終えたA2遺伝子、RNA複製酵素遺伝子および外被遺伝子制御領域については、今年度の研究実施計画に基づいて研究を進める。(1)近縁ファージ間での遺伝子の相補性:ファージ間でA2遺伝子およびRNA複製酵素遺伝子を置換し、宿主域決定に関与する部位およびRNA複製酵素の鋳型特異性に関与する部位を探索する。(2)外被遺伝子制御領域の改変がファージ増殖に与える効果:同遺伝子制御領域のIRES様構造をSD配列に改変した効果を、外被遺伝子発現とファージRNA増殖の点から調べる。前者では外被遺伝子にレポーターlacZ(β-galactosidase)遺伝子を連結してその発現量を測定し、後者ではリアルタイムPCR法を用いてファージRNA合成量を測定する。
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Causes of Carryover |
外被遺伝子制御領域を改変することにより感染性ファージの産生が著しく減少する現象が度々観察された。同遺伝子制御領域の構造とファージの増殖・感染性との関連を調べることは本研究課題の一部であり、このためにファージRNA合成量を測定するためのリアルタイムPCR装置の購入が必要となった。生じた次年度使用額はこの装置購入費用の一部として次年度に使用する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度交付予定額と合わせてリアルタイムPCR装置(IT-IS社製 MyGo Mini Real Time PCR System、定価85万円)の購入を計画している。
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