2016 Fiscal Year Research-status Report
植物種子細胞に見られるATP依存型翻訳活性の分子機構解明
Project/Area Number |
16K14665
|
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
戸澤 譲 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (90363267)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 翻訳 / 翻訳因子 / 植物 / GTP / コムギ / イネ / 酵母 |
Outline of Annual Research Achievements |
コムギ抽出液を利用するインビトロ翻訳系において、GFPをテストタンパク質とした系で、翻訳反応液にGTPを含まない条件下でのタンパク質合成活性がGTPを含む条件と遜色なく維持できることを確認した。その一方で翻訳鋳型として添加するmRNAの分解物GMPに由来するGTPが翻訳反応液中に再生されることも見出した。そこで、GMPからGTPが再生される系を排除するために、poly(U)を鋳型とする翻訳伸長活性を調査したところ、GTP非依存的なペプチド伸長活性を確認した。以上より、少なくともペプチド伸長過程においてはコムギ翻訳装置はGTP非依存的に反応を進めることが可能であるという結論に達している。 コムギ胚芽抽出液に続き、昨年度は新たにイネの培養細胞(カルス)に由来する抽出液を用いたインビトロ翻訳系の構築を図り、これに成功した。この系もコムギ胚芽抽出液と同様にGTP非添加条件下での翻訳活性を示し、poly(U)を鋳型とする系においても、同様にGTP非依存的なペプチド伸長反応活性を示した。さらに、酵母Saccharomyces cerevisiaeを材料としてインビトロ翻訳系の構築を進めた。活性は植物由来の抽出液に比べ低いものの、ペプチド伸長活性の測定には十分であった。驚くべきことに、酵母細胞抽出液においても、poly(U)を鋳型とするペプチド伸長活性はGTP非依存的条件下においても検出可能なことが明らかとなった。 現在、イネ培養細胞を利用するインビトロ翻訳系を特許申請するか否かを検討している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画書に記載したロジックにほぼ沿った形で実験をすすめることができており、コムギ胚芽抽出液において見出した現象が、イネ培養細胞抽出液においても同様に確認できた。予想外な展開もあり、酵母細胞抽出液においても同様な現象、すなわちGTP非依存的なププチド伸長活性を確認した。基礎研究の分野における新たな学説を提唱する上での基盤的な情報を収集できていると判断している。「おおむね」としているのは、特許も絡み結果を公表する機会を先延ばしにしている点からの判断である。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず、これまでに得られた結果を論文と学会において発表を行う。イネ培養細胞抽出液を利用するインビトロ翻訳系に関しては、進化工学技術などへの応用を検討し、特許化するか否かを早期に判断する予定である。 GTP依存的な翻訳活性は、これまで永きに渡り大腸菌系を中心にした解析で明らかにされてきた。そこで、最終年度には、大腸菌のインビトロ翻訳系を構築し、そのGTP依存性を明らかとし、生化学的な観点から昨年度までに二つの植物の細胞抽出液および酵母細胞抽出液より見出したGTP非依存的なペプチド伸長活性との相違を明確にしておきたいと考えている。 想定外の結果としては、系内に含まれる微量のGMPが抽出液が含むguanylate kinaseおよびdinucleotide kinaseによりGDPやGTPへ再生されることが、翻訳装置の活性維持に必要十分なGTPの供給源となっている可能性を残している。最終年度はこの懸念を払拭し、明快な結論とともに、新たな学説提唱の活動に力を入れて行く予定である。
|