2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K14674
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
伊藤 昭博 国立研究開発法人理化学研究所, 吉田化学遺伝学研究室, 専任研究員 (40391859)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ミリストイル化 / パルミトイル化 / アシル化 / TEAD / Hippo経路 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん抑制シグナル経路の一つであるHippo経路で働く転写因子TEADのリジン残基のミリストイル化の制御機構の解明を目的とし、平成28年度は以下の2点について研究を推進した。 1. 迅速な細胞内リジンミリストイル化TEADの検出方法の確立。ミリストイル化リジンを含有するTEAD由来のペプチドを抗原として用いて、ミリストイル化TEADを特異的に検出するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の作製を行った。MS解析により、TEADはミリストイル化だけでなく、パルミトイル化修飾も受けることが分かったが、ペプチドを用いたELISAアッセイにより作製したモノクローナル抗体は、ミリストイル化ペプチドを強く、パルミトイル化ペプチドを弱く認識する一方、アセチル化および非修飾のペプチドは全く認識しなかったことから、長鎖アシル化TEADを特異的に認識する抗体の取得に成功した。本抗体を用いて、細胞内のTEADが長鎖アシル化されていることを確認し、抗体を用いたウエスタンブロット法により迅速且つ簡便にTEDAの長鎖アシル化を検出することを可能にした。 2. TEADリジンミリストイル化の制御機構。最近、TEADのシステイン残基がパルミトイル化されることが報告された。X線結晶構造においてこのシステイン残基は、我々が見出したアシル化部位であるリジン残基と近接していたころから、システインおよびリジン残基の長鎖アシル化の相互作用について、システインをセリンに置換した変異体を用いて検討したところ、リジン残基のアシル化修飾はシステイン残基から分子内転移によって引き起こされていることを示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、がん抑制シグナル経路の一つであるHippo経路で働く転写因子TEADのリジン残基のミリストイル化の制御機構およびその生理的意義の解明を目的としている。平成28年度はTEDAミリストイル化の制御機構の解明を主な目的とし研究を実施した。本年度の目標を達成するためには、簡便で迅速なTEDAミリストイル化の検出系の確立は必須の課題であった。そのため、TEDAミリストイル化を特異的に認識するモノクローナル抗体の作製を試み、成功した。リジン長鎖アシル化を特異的に認識する抗体の報告は存在せず、本抗体が世界初となる。本抗体を用いて、TEADが細胞内でアシル化されていることを確認することが出来き、本抗体の取得により、今後の研究進展の飛躍的な加速が期待できる。最近、TEADのシステイン残基がパルミトイル化され、パルミトイル化は転写共役因子YAP/TAZとの結合に重要であることが報告された。我々が行ったMS解析の結果からも同じシステイン残基のパルミトイル化を確認しただけでなく、ミリストイル化されることを見出した。報告されているTEADのX線結晶構造においてこのシステイン残基は、我々が見出したアシル化部位であるリジン残基と近接していたこと、システインをセリンに置換したTEAD変異体はリジンアシル化修飾できなくなったことから、リジン残基のアシル化修飾はシステイン残基から分子内転移によって引き起こされているという全く新しいリジンアシル化修飾の制御機構を示唆する結果を得ることが出来た。以上から、当初予定していた目標については、概ね達成することが出来たと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
がん抑制シグナル経路の一つであるHippo経路で働く転写因子TEADのリジン残基のミリストイル化の制御機構およびその生理的意義の解明を目的とし、引き続き以下の研究を推進する。 1. TEADのリジンミリストイル化修飾酵素の同定。TEAD由来のミリストイル化リジンペプチドを基質として用いて、in vitroで脱アシル化酵素活性を有するヒトサーチュインを同定する。In vitroで活性のあったサーチュインについて、siRNAオリゴを用いたノックダウンおよび過剰発現系を用いて、今年度作製に成功した抗体を用いたウエスタンブロット法により、細胞レベルでの効果を検討し、TEADの脱リジンアシル化酵素を同定し、TEADのリジンミリストイル化制御機構の全貌を明らかにする。 2. リジンミリストイル化によるTEADの活性制御。ミリストイル化部位と同定されたリジン残基は、転写共役因子YAP/TAZの結合ドメイン中に存在し、種を超えて保存されていることから、YAP/TAZとの相互作用に影響を与える可能性が高い。そこで、野生型とミリストイル化されるリジンをアルギニンに置換した変異体(KR変異体)のYAP/TAZとの結合活性を比較しながら検討する。TEAD転写活性の影響については、レポーターアッセイ、CTGFなどの標的遺伝子のmRNAレベル、さらにはマイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析等により検討する。以上の実験により、リジンミリストイル化によるTEADの活性化制御機構を明らかにする。
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Causes of Carryover |
本研究課題の目的を達成するためには、リジン長鎖アシル化タンパク質の検出を確立することが必須である。平成28年度において、長鎖アシル化TEADを特異的に認識するモノクローナル抗体の作製に成功し、本抗体を用いて研究を進めた。抗体作製の成功により、クリック反応を利用した長鎖アシル化検出法の確立の緊急性は低くなり、本年度は実施しなかった。一方で、クリック反応を用いた長鎖脂肪酸標識技術の確立は、網羅的なアシル化タンパク質の同定に必要であるので、本年度使用予定であった長鎖アシル化タンパク質標識に必要な経費の一部を、次年度に使用することにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰越金と合わせた直接経費1,871,062円のうち、物品費に1,571,062円、旅費に200,000円、その他に100,000円を使用予定。内訳および使途目的は以下の通り。物品費(1,571,062円):抗体類(200,000円)、脂肪酸標識試薬(300,000円)、細胞培養関連器材(200,000円)、ガラス器具(100,000円)、その他一般試薬(771,062円)。旅費(200,000円):本課題の成果を国内学会に発表。その他(100,000円):学会参加費、論文投稿料等。
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Research Products
(1 results)