2016 Fiscal Year Research-status Report
時計タンパク質KaiCの立体構造とATPase活性に基づく古地球自転周期の考察
Project/Area Number |
16K14685
|
Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
古池 美彦 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 助教 (70757400)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 時計タンパク質KaiC / X線結晶構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
時計タンパク質KaiA, KaiB, KaiCはシアノバクテリアの概日時計システムを駆動する。このシステムの特異な点は、KaiA, KaiB, KaiCをATPとともにチューブの中で混合すると生体内で実現されている時計機能がそのまま生体外でも再現できるという点にある。これは生物時計研究が化学や物理の視点から研究できるという点で重要な特長である。 特にKaiCはATP結合部位を有し、シアノバクテリア概日時計発振機構の中核的役割を担っている。KaiCは主にATPを加水分解して「時計の進む速さ」を規定するC1リングと自己リン酸化・脱リン酸化によって細胞内の他の関連タンパク質群に時刻情報を与えて「時計の針」の役割を果たすC2リングという2つのドメインによって構成される。したがってC1リングの構造・C2リングの構造およびC1リングとC2リングのカップリング機構を明らかにすることで、KaiCが地球の自転周期をどのように分子内に蓄えて機能を発揮しているかが考察できる。 本研究ではまずSynechococcus elongates PCC7942由来KaiCのX線結晶構造解析に取り組み、C2リングが異なる時刻情報(リン酸化しているか、脱リン酸化しているか)を表示しているときに全体構造がどのように変化するかを観察することを目標とした。これまで他国の研究チームによってリン酸化されたKaiCの結晶構造が報告されてきたが、我々は脱リン酸化状態におけるKaiCの結晶構造を取得することが出来た。これはKaiCの主観的夜(リン酸化)と主観的昼(脱リン酸化)における構造比較ができるようになった点で画期的である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究ではモデル生物のSynechococcus elongates PCC7942だけでなく、多数の他種シアノバクテリアのKaiCの情報も用いて、分子系統樹に基づき祖先型KaiCを復元しようとしている。現生型KaiCと祖先型KaiCの構造・性質を比較することを目標にしているが、順調に進展している現生型KaiCの構造解析に対して、生化学的に扱いやすい祖先型KaiCの調製は期待通りには進んでいない。しかし現生型KaiCの取り扱いに関する潤沢なノウハウや様々な祖先型タンパク質復元研究において蓄積されてきたアイデアを本研究にも適用する余地がかなりあり、次年度では状況は改善されると見込んでいる。
|
Strategy for Future Research Activity |
KaiCのリン酸化レベルには4段階(ST-SpT-pSpT-pST)あり、それぞれ主観的昼・夕・夜・朝という時刻情報に対応している。今後は現生型KaiCを用いて、夕や朝といった時刻情報がKaiC分子内にどのような構造情報としてインプットされているかを明らかにしたい。また、シアノバクテリアの概日時計は他の生物種と同じく、「時計周期の温度補償性」を有している。これはKaiCタンパク質が異なる温度環境におかれていても正しく24時間周期を維持するという特異かつ重要な性質を指す。今後は得られた結晶構造に基づき温度補償性を欠損したKaiCをデザインできる可能性がある。またSynechococcus elongates PCC7942や他種の現生KaiC、それから祖先型KaiCの生化学的な性質評価に引き続き取り組む。
|