2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K14688
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
伊原 健太郎 国立研究開発法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, 研究員 (90647207)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
羽藤 正勝 国立研究開発法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, 嘱託職員 (40357786)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 膜タンパク質 / 脂質メソフェーズ結晶化法 / イソプレノイド鎖型脂質 / Gタンパク質共役型受容体 / アデノシンA2A受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
脂質メソフェーズの利用は、膜タンパク質の結晶化に必須である。しかしながら、結晶化に利用できるマトリクス脂質はモノオレイン(MO)に代表される少数のモノアシルグリセロール(MAG)型脂質に限られる。そんな中、本研究実施者らはMAG型脂質以外で始めて、脂質メソフェーズ結晶化法に利用可能なイソプレノイド鎖(IPC)型脂質を見出した。新規脂質の活用技術の確立、及び実用化を目的として、結晶化マトリクスにIPC型脂質を用いた膜タンパク質の結晶構造解析を行っている。 2016年度は、IPC型脂質であるEROCOC17+4 (ER)を用い、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の一つ、アデノシンA2A受容体(A2AR)の結晶化条件を最適化、SPring-8 BL32XUにおいて回折データを収集、2.0 Å分解能で構造を決定した。MOを使った1.8 Å分解能の結晶構造(4EIY: Liu W. et al., Science 337, 232, 2012)との比較により、タンパク質部位の構造は本質的に等価である一方、タンパク質を取り巻く脂質の電子密度は、脂質構造の違いを反映して全体的にずれており、数カ所では明瞭なERの電子密度も観測され、シス型に固定されたMOの不飽和脂肪酸部位にない、ERの飽和脂肪酸のより柔軟な構造が示唆された。 また、ERはMOと比べかなり低温まで脂質メソフェーズが安定である。実際、ERでは4-25℃の範囲で結晶が得られており、20℃と25℃でほぼ同質の構造決定が行われた。 更に、ERとMOを等量混合した結晶化マトリクスを使用すると、同じ結晶化条件で結晶サイズがかなり大きくなり、上述と同等の構造決定ができることも判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年度の当初の計画通り、ERを使用したA2ARの結晶化条件の最適化を行い、比較的分解能が高い結晶構造を決定、MOを用いて構造決定されたA2AR構造と比較することができた。この他、広い温度領域でERを用いた結晶化にも成功しており、IPC型脂質は少なくともMAG型脂質に遜色ない結晶化マトリクスとしてのポテンシャルを有することを示せたと考えられる。さらに、X線自由電子レーザー(XFEL)を用いたシリアル・フェムト秒結晶構造解析(SFX)に向け、高密度結晶を多量に作成することも達成できている。 一方、MAG型脂質にないIPC型脂質の低温での脂質メソフェーズ安定性を利用することに関しては、低温で十分な大きさの結晶を得ることができておらず、構造決定に至っていない。 また、X線小角散乱(SAXS)により脂質の相状態と結晶性の相関を調べて合理的な結晶化条件の最適化も目指しているが、脂質単独でのSAXS測定に着手したばかりである。 以上より、それなりに目標を達成できてはいるが、IPC型脂質の独自性が不足している点は課題として残されており、全体的には概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度の研究で課題として残された、IPC型脂質の独自性をさらに追求するため、低温でのIPC型脂質の運用等を検討する。また、2017年度の研究実施計画に沿い、XFELを使ったSFXも試みる。 この他新たな展開として、ER以外のIPC型脂質や、A2AR以外のGPCRのサンプル調製も準備が完了しており、IPC型脂質の種類と、適用可能なGPCRの拡大を目指す。 また、A2ARに対しては数々のリガンドが開発されており、創薬の有望なターゲットになっている。現在構造決定に使っているアンタゴニストZM241385だけでなく、構造決定が報告されていないアンタゴニストやアゴニストとの複合体構造解析を行い、IPC型脂質が創薬に貢献できる可能性を検討する。 2017年度は本研究の最終年度である。IPC型脂質の普及と更なる研究の促進のため、本研究の成果を研究会や学術誌への論文掲載により公表する。
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Causes of Carryover |
結晶化条件の最適化と構造決定が順調に行われた為、特に消耗品に関して購入量が少なくて済み、次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
IPC型脂質を用いた膜タンパク質の結晶構造解析を一般化するため、ER以外のIPC型脂質や、A2AR以外のGPCRとそのリガンド、そしてZM241385以外のA2ARリガンドを本研究で使用する。脂質やGPCRリガンドは一般に高価であり、物品費が多めに必要になりそうなため、次年度使用額をこれらの購入に充てる。
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