2016 Fiscal Year Research-status Report
光操作による膜形状変化と膜上シグナリング誘導の解析
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16K14692
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
島田 奈央 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (90596850)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | リン脂質膜ータンパク質の相互作用 / BARドメインタンパク質 / 細胞性粘菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、リン脂質膜を変形させる材料として必要なBARドメインタンパク質のクローニングと精製を行った。これらをリポソームを用いた脂質二重膜、または油相中に形成した水滴を用いた脂質一重膜に与えることにより、リン脂質との相互作用をはじめとした機能解析を行った。 細胞性粘菌のゲノムデータベースよりBARドメインタンパク質コードする2遺伝子を選び、RFPタグ発現コンストラクトの構築およびタンパク質精製を行った。これをリポソームの外側へ加え共焦点顕微鏡観察を行った結果、RFP蛍光が脂質膜上で観察された。脂質一重膜を用いても、同様にRFP蛍光が脂質膜上で観察された。このことから、これらのBARドメインタンパク質はリン脂質へ結合することが示された。またこれらのBARタンパク質のBARドメイン領域のみ、またはBARドメイン以外の領域のみをクローニングし、RFPタグタンパク質を精製し同様に脂質膜に与え膜上のRFP蛍光を比較した結果、BARドメイン領域のみを持つものでは蛍光が観察され、BARドメイン以外の領域のものでは蛍光が観察されなかった。このことから脂質膜への結合はBARドメインを介していることが示された。さらに、リン脂質成分の構成比を変えると膜上のRFP蛍光輝度が変化することから、BARドメインの結合にはリン脂質の種類の依存性があることが示唆された。今回精製した粘菌のBARドメインタンパク質の脂質結合性についてはこれまで報告はなく、新しい知見であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞性粘菌のBARドメインタンパク質であるslp (Syndapin-like protein)、nlp (Nwk/Bzz1p-like protein)遺伝子について、RFPタグ発現コンストラクトを構築し、大腸菌にてタンパク質の発現と精製を行った。フォスファチジルコリン、フォスファチジルセリン,フォスファチジルイノシトール(4,5)-ビスリン酸で構成されたリポソーム外へ精製タンパク質を与え、共焦点顕微鏡で観察を行った結果、脂質膜上でRFP蛍光が観察された。これらの脂質を有機溶媒であるデカン溶解し、この油相中で精製タンパク質を含む水滴を形成させると、リポソームの場合と同様に油相と水相の界面(脂質一枚膜)上でRFP蛍光が観察された。これらのことから、今回精製した2つのBARドメインタンパク質はリン脂質へ結合することが示された。 さらに、これらのBARドメインタンパク質について、BARドメインのみ、またはSH3ドメインを含むBARドメイン以外の領域についてそれぞれRFPタグ発現コンストラクトを構築し、同様に脂質膜へ与えた結果、BARドメインのみをもつ精製タンパク質は脂質膜上への局在が観察され、一方、BARドメイン以外をもつ精製タンパク質は脂質膜上への局在が観察されなかった。このことから、リン脂質膜への結合はBARドメインを介していることが示された。また、PI(4,5)P2を含まない脂質を用いると脂質膜上の蛍光輝度が低下することから、この結合にはリン脂質の構成成分に依存していることも示された。さらに、油相に形成した水滴は通常球形をしているが、BARドメインタンパク質の脂質膜の蛍光輝度が高いものにしばしば形状の歪みが観察された。このことから、今回精製したBARドメインタンパク質は脂質膜変形能をもつことが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、精製BARドメインタンパク質を利用した脂質膜変形を操作する系を確立と、脂質膜上のシグナル因子群の精製を行う。 これまでにしばしば観察されている脂質膜の変形と形状の維持について、膜に局在するBARドメインタンパク質の量、水滴に内包されるBARドメインタンパク質の量、脂質の構成成分との関係を明らかにする。これらの性質をふまえ、青色光照射によりはじめて膜結合能を持つBARドメインを設計・構築し、光により脂質膜への局在量を操作することで、膜変形を誘起する系を確立する。また、他生物種においてBARドメインタンパク質の脂質膜結合は膜曲率依存性が示されていることから、脂質膜をマイクロピペットアスピレーション法を用いて物理的に変形させることでBARドメインタンパク質の膜局在、膜の変形と維持が誘導されるか調べ、膜変形を操作する系に応用できるか検討する。 その一方で、脂質膜上でシグナル伝達を行う因子類の精製を行う。Rasタンパク質については発現コンストラクトを作製済みであるので、発現と精製を行う。またGEFやGAPについても発現コンストラクトの構築と精製、その酵素活性の検出系の確立を行い、in vitroで活性をもつか確認する。これらのシグナル因子は脂質膜上に局在している必要があるので、精製タンパク質をストレプトアビジン修飾し、ビオチンを含む脂質膜上への局在を顕微鏡下で確認する。
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Causes of Carryover |
本年度はBARドメインタンパク質の発現コンストラクトの構築と精製をおこなったが、これらが想定外に順調だったため、タンパク質精製に使用するセファロースビーズなどの担体の使用量をおさえることができた。また、当初リポソームを用いた実験を行っていたが、油相に水滴を形成させる実験法を併用することで、実験あたりに使用する脂質とタンパク質の量を減らすことができた。この実験法は再現性が高いため、失敗の回数を減らすことができた。総じて実験に使用する材料のを下げることができたため、次年度の使用額が生じたと考えられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度は本年度よりも多くの種類の新規タンパク質精製を行うため、精製条件検討を含めた担体の購入に充てる。また本年度明らかになったタンパク質局在のリン脂質構成成分依存性を検討するにあたり、使用するリン脂質の種類を増やす予定であり、その購入に充てる予定である。
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