2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K14705
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
船津 高志 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (00190124)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 生物物理 / ナノバイオ / 細胞・組織 / 生体分子 / 分析科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
温度は基本的な物理量の一つであり、細胞機能に大きく影響すると考えられている。細胞内の生体分子のラマン散乱光を測定することにより、生体分子の温度を直接計測する技術を開発するため、今年度は以下の2項目について研究を行った。 1.顕微ラマン分光装置の組み立て 現有の1分子蛍光顕微鏡システムに分光システムを組み込み、ラマン散乱光を分光できるようにした。まず、細胞を明視野または位相差顕微鏡で観察し、ラマン散乱光を測定する領域を決定した。次に光路を分光側に切り換え、球面レンズまたはシリンドリカルレンズを用いて、レーザーを一点または線上に照射した。試料から出た光のうちレイリー散乱光をノッチフィルターで除き、ラマン散乱光をポリクロメーターに導入し、回折格子によって分散した光を、高感度EMCCDカメラを用いて撮影した。これにより、細胞の一点または線上に沿ってラマン散乱光のスペクトルを取得することができた。 2.標準試料溶液の温度測定と分光装置の校正 水分子O-H伸縮振動のラマンスペクトルは幅広いスペクトルとなり、大きく分けて2つのピークが観測されること、isosbestic pointが3419 cm-1にあることが知られている。高温になるほど低ラマンシフト側のピークが小さくなり、高ラマンシフト側のピークが大きくなるため、この性質を利用して温度を計測できる。インキュベータで試料(水)の温度を変えながら水分子のラマンスペクトルを測定し、分光装置の校正を行った。次に、COS7細胞のラマンスペクトルを測定した。20 mWの出力、60秒の露光でラマンスペクトルを取得し、温度を計測することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.顕微ラマン分光装置の組み立て 現有の1分子蛍光顕微鏡システムに分光システムを組み込み、顕微ラマン分光装置を組み立てることが出来た。細胞の明視野または位相差像とラマンスペクトルを、光路を切り換えることにより、1台の高感度EMCCDで取得できるように工夫した。球面レンズまたはシリンドリカルレンズを用いて、レーザーを一点または線上に照射し、細胞の一点または線上に沿ってラマン散乱光のスペクトルを取得することができた。本年度内に装置の組み立てが終わり、細胞内の特定の領域のラマンスペクトルを取得できるようになった。よって、予定通りに研究が進捗していると言える。 2.標準試料溶液の温度測定と分光装置の校正 水分子O-H伸縮振動のラマンスペクトルは幅広いスペクトルとなり、大きく分けて2つのピークが観測されること、isosbestic pointが3419 cm-1にあることが知られている。これらは水素結合の状態を表しており、高温になるほど低ラマンシフト側のピークが小さくなり、高ラマンシフト側のピークが大きくなる。これを利用して細胞内の局所温度を顕微計測できる。インキュベータで試料(水)の温度を変えながら水分子のラマンスペクトルを測定し、分光装置の校正を行った。またCOS7細胞のラマンスペクトルを測定することができ、内部の生体分子の温度を計測する準備が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
1.蛍光標識したミトコンドリアの温度測定 培養細胞(HeLa細胞、COS7細胞など)の培地にMitoTrackerプローブを加え、ミトコンドリアの膜に選択的に結合させる。測定したストークス光とアンチストークス光の強度比からMitoTrackerプローブ(ミトコンドリア)の温度を求める。次に、脱共役剤FCCP(Carbonyl cyanide-p-trifluoromethoxyphenylhydrazone)を加えてミトコンドリアにおけるATP合成を阻害する。温度感受性蛍光ポリマーなどによる測定結果では、この条件下でミトコンドリア周辺の温度が上昇することが観察されている。実際に、温度上昇が起こっているかラマン散乱による温度測定法で検証する。 2.細胞内のシトクロムcの温度測定 シトクロムcは、ミトコンドリアの内膜に弱く結合しているヘムタンパク質の一種である。このヘムに由来するラマン散乱を測定し、シトクロムcの温度を測定する。シトクロムcの温度は、ミトコンドリア周辺の温度を反映していると期待される。前述のように、FCCPを加えてATP合成を阻害し、ミトコンドリア周辺の温度が上昇するか検証する。 3.核内と細胞質の温度のラマン分光による同時測定 温度感受性蛍光ポリマーを用いた計測によりG1期では細胞の核が細胞質より0.7℃温度が高いことを報告した。これを検証するため、核内と細胞質のラマン散乱による同時温度測定を行う。核内に局所的に存在するものとしてDNA、細胞質に局在するものとしてシトクロムcを測定する。これ以外の方法として、ラマン散乱の強いプローブ(アルキン分子)を細胞内にマイクロインジェクションにより導入し、核内と細胞質に分布するプローブを同時にラマン分光することも検討する。
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