2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K14723
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
三木 裕明 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (80302602)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ストレス / 癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の研究成果からPRLの組換えタンパク質をATPと混合することによってPRLのCysリン酸化が起こることを見つけていた。ATPは細胞内でMg2+と複合体を作っていることがよく知られ、また私たちの以前の研究でMg2+の量変動に連れてATP量も大きく変化することを報告していた。ATPがPRLの細胞内でのリン酸化ドナーとして機能している可能性が考えられたので、その点について具体的に検討した。細胞内のATP量を減少させるためグルコースアナログの2デオキシグルコースやATP合成酵素阻害剤のオリゴマイシンで十分に処理したが、PRLのリン酸化レベルは特に変化することはなかった。またin vitroでのリン酸化は非常に高濃度のATPを加えてもPRLのごく一部がリン酸化されるだけで、非常に非効率であることも分かった。これらの実験結果からATPが細胞内でのPRLリン酸化ドナーとして働いているという可能性は低いと結論した。細胞内にはさまざまなリン酸結合を持つ物質が存在しているので、他の生体物質がそのような役割を担っている可能性が考えられた。また細胞外のMg2+枯渇時の応答としてPRLのタンパク質量が顕著に増加し、Cysリン酸化が減少することを見つけていた。このPRLのタンパク質量増加が遺伝子発現レベルでの調節を受けていることも示されていたが、mTORキナーゼの阻害剤ラパマイシン処理でPRL発現が顕著に増加することを偶然に見つけた。細胞内Mg2+量の減少がATP量の減少を介してAMPキナーゼを活性化し、mTORシグナルを抑制することが分かっているので、このようなシグナル伝達系がMg2+枯渇へのPRL発現応答に関わっている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、細胞内Mg2+調節やがん悪性化に関わる分子PRLに生じていることを見つけたCysリン酸化の重要性についての研究を行い、これまでほとんど報告事例すら存在しなかったCysリン酸化に関する解析を進め、タンパク質機能制御のまったく新たな分子機構としてCysリン酸化の重要性を明確に位置付けることを目指している。30年度においてはATPがPRLのCysリン酸化におけるリン酸ドナーとして機能する可能性について詳細な検討を行った。また、前年度に見つけていたMg2+枯渇時のPRL遺伝子発現応答において新たにmTORキナーゼを介するシグナル伝達が重要である可能性を強く示唆する実験結果を得ることができた。特に後者についてはMg2+枯渇への応答のシグナル伝達を分子リレーとして明確にできる可能性があり、今後の発展が期待できる重要な研究成果と位置付けられる。これらの理由から、30年度はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように30年度の研究はおおむね順調に進展したが、その結果としてMg2+枯渇に応答するシグナル伝達メカニズムに関してさらなる発展が期待できる成果が得られた。また、PRLのCysリン酸化を引き起こすリン酸ドナーの分子実体など、細胞内でのリン酸化・脱リン酸化の調節の具体的なメカニズムを調べる必要性も生じてきた。これらの点をさらに追究するため、31年度も期間延長して引き続き本研究を実施して所期の目標の達成に努めることにした。
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Causes of Carryover |
30年度の研究計画を実施するにあたって、研究室に所属機関から配分され執行上の使用目的が狭く限定されていない運営費交付金などで購入した物品を利用することができた。このため、本研究での物品費を大幅に節約して、実施状況報告の時点で想定していた金額よりも少ない研究費で研究計画をほぼ実施することができたので次年度使用額が生じた。本報告書の「今後の研究の推進方策」に具体的に説明したように、31年度も期間延長してPRLのCysリン酸化・脱リン酸化調節やMg2+枯渇への応答に関する分子メカニズム究明に取り組むので、この次年度使用額を利用する。
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Research Products
(21 results)