2016 Fiscal Year Research-status Report
母体の糖尿病によるマウス脳正中欠損発症メカニズムの解明
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16K14743
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
元山 純 同志社大学, 脳科学研究科, 教授 (70321825)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 発生 / 分化 / 細胞分裂 / マウス / 胚 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者の研究目的は、胚発生過程での環境因子が細胞分化分裂に必須な分化誘導因子Shhシグナルの作用にどのように干渉するかを解明することである。本課題では胎齢7.5日胚の神経板正中細胞(底板細胞)のShhによる分化誘導に対する高血糖環境の作用解明を目的とした。底板細胞は胎齢7.5から7.75日に、脊索前板からの細胞外シグナルShhによって神経板の一部が誘導されてできあがる。その底板細胞の分化誘導が妊娠期間中のエタノール暴露や糖尿病の罹患等の環境因子によって影響を受け先天奇形等の原因となる事が分かっている。本研究では妊娠期間の糖尿病による正中欠損発症に注目し、高血糖が底板細胞の誘導に関わるShhシグナルの作用自体もしくは応答に干渉するという仮説をたてた。 2016年度ではマウス胚に対する高血糖の作用を観察するために、胎齢7.5日マウス胚を母体外で培養しつつ、細胞周期、ミトコンドリア形態、カルシウム濃度の変動を観察する実験系の確立を行なった。また平行して同様にShhの作用に依存している大脳皮質神経幹細胞、神経前駆細胞での細胞分裂、細胞分化促進過程について、胎齢14日マウス胚大脳皮質スライスを用いた同様の観察を行なった。現在、高血糖のShhの作用に与える影響を解析している。また高血糖以外の代謝物による作用の可能性も考慮し、糖尿病モデルマウス系統の導入と繁殖を行なった。系統としてPtch1+/-変異マウスおよびPtch1 mesマウスを、また野生型マウス(C57BL/6NCrJ)にたいしてストレプトゾシンを腹腔内投与して糖尿病モデルを作製し胎児の発生の観察を行う準備を行なっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.胎齢7.75日マウス胚を培養しつつ細胞周期、ミトコンドリア形態、カルシウム濃度の変動を観察する実験系の確立を行なった。野生型マウス(C57Bl6J)の空腹時血糖値はおよそ1-1.2 mg/mlである。糖尿病モデルマウスでは膵臓β細胞への毒性を持つストレプトゾシンを腹腔内投与して作成した場合、インシュリンの欠乏により4-6mg/mlとなる。現在までに様々なグルコース濃度での胚培養を実施した。培養液中のグルコース濃度は培養前に測定した上で培養を行なった。その結果、最終グルコース量が正常血糖値ではマウス胚は24時間では培養下で生存できない事を確認した。使用している実験方法では、コントロール群の培養液として100%ラット血清に更に2mg/ml分のグルコースを添加している。ラット血清は絶食後のリタイア雄個体から採取しているが、グルコース添加後の最終濃度が3~5mg/mlとなっている。すなわち現状ではコントロールですでに糖尿病に近いグルコース濃度になっている。したがって培養期間、培養液等の見直しを行なう必要がある。 2.マウス初期胚の培養実験に平行してマウス胚大脳皮質スライスでのミトコンドリア形態とカルシウム濃度の変動を観察する実験系の確立をおこなった。先行研究により、脂肪細胞ではShhの作用により細胞内カルシウムイオンの流入が起こり、AMPKの活性に依存して解糖系の亢進が生じる事が報告されている。胎齢12-14日齢のマウス胎児脳の大脳皮質のスライス標本を作製し、共焦点顕微鏡を用いて細胞内カルシウム濃度およびミトコンドリアのイメージングを行なった。培養液はDMEM-HF12およびaCSFを用いているためグルコース濃度を管理する事が容易である。現在までに短時間ではあるが、胎齢12日、14日、16日での細胞内カルシウム濃度およびミトコンドリア形態の同時イメージングが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
1.胎齢7.75日マウス胚を母体外で培養しつつ高血糖による正中細胞発生への影響を観察する実験については、正常血糖値と同じグルコース濃度では24時間のin vitro全胚培養が困難であること、コントロールでのグルコース濃度が既に正常より高い事が判明したため条件の変更が必要である。変更点としては長期間の培養ができないのであれば、短時間での高血糖作用下での細胞の状態変化を観察する事が考えられる。本課題と同時に並行して行なっている大脳スライスでの観察実験では、20分の観察ではあるが、細胞内カルシウムイオン濃度の変動とミトコンドリアの形態変化を経時的に観察できている。7.75日マウス胚の形態は大脳スライスのように平坦ではなく、定量可能なイメージングを行なうためには工夫が必要であるが、初期胚への高血糖の影響を解析する実験系の確立実現の可能性を探りたい。 2.マウス初期胚の培養実験に平行して胎齢14日マウス胚大脳皮質スライスでのミトコンドリア形態とカルシウム濃度の変動を観察する実験系の確立をおこなった。2016年度での研究によって大脳スライスを用いて細胞内カルシウム濃度およびミトコンドリアのイメージングが可能となった。我々自身の先行研究によってShhが大脳皮質での神経幹細胞や神経前駆細胞の分裂分化に必須である事を明らかにしている事から、今後は高血糖の細胞内カルシウム濃度変動、ミトコンドリア活性への影響、およびShhシグナルへの干渉について、大脳皮質を対象として解明することが可能である。
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Causes of Carryover |
初期胚の培養実験の結果、条件設定を変更する必要が出て来たため、ラット血清を購入する必要がなくなった。長期間の培養実験を行わないため、抗体等を用いた組織的解析の実施が無くなり抗体等を購入する必要が無くなった。熊本で開催予定であった日本発生学会が中止になったため、学会参加費用の支出が無くなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
初期胚での高血糖環境の影響は短時間でのイメージングで実施するため、カルシウム指示薬、ミトコンドリア活性指示薬等を用いた経時的な細胞動態観察のための消耗品に使用する。
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