2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K14761
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
長谷部 光泰 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, 教授 (40237996)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 食虫植物 / ハエトリソウ / 進化 / シグナル伝達 / 刺激 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではまず記憶部位の位置を推定した上で,その部位での分子動態変化の解析を目指している。このことから,まず記憶部位の推定に必要なカルシウムセンサータンパク質を発現したハエトリソウ株の樹立に注力し,形質転換効率の向上に取り組んだ。外来遺伝子の導入に用いるアグロバクテリアの感染効率の向上を目指して条件を検討したところ,黄化した葉(暗所で一カ月程度培養した葉)を形質転換の際の外植片として用いるとアグロバクテリアの感染効率が向上することが分かった。次に,形質転換後の組織片の生存率の向上を目指し,培地の組成・培養環境のそれぞれについて条件を検討した。まず培地の組成を検討したところ,培地のpHを上げて培地に緩衝剤の一種であるMES(2-Morpholinoethanesulfonic acid, monohydrate)を添加すると,生存率が向上することが分かった。一方培養環境の条件を検討したところ,形質転換後に暗所で培養し続けることで形質転換した組織の生存率が向上することが分かった。また,形質転換技術を用いてカルシウムセンサー蛍光タンパク質GCaMP6f発現ハエトリソウ株の樹立に取り組んだところ, GCaMP6fを発現させたハエトリソウ組織の作成に成功した。この時,作成したGCaMP6f発現組織に接触刺激を与えたところ,蛍光輝度が変化する様子が観察された。このことからGCaMP6fはハエトリソウ組織においてカルシウムイオンの濃度変化を捉えるのに十分大きい解離定数を持つことが分かった。また,葉身への薬剤の添加によって記憶の分子メカニズムを推定するために,まずトルイジンブルー溶液を葉身へ添加することで水を吸収する組織を推定した。その結果,腺組織においてのみトルイジンブルー溶液が吸収されることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
記憶部位を推定するにはGCaMP6fが葉身内の全ての細胞で均一に発現する必要があるが,形質転換した葉を培養し続けると,成長に伴って一つの葉身の中で外来遺伝子発現する細胞と発現しない細胞が現れてしまったため。
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Strategy for Future Research Activity |
形質転換した葉を培養し続けると,成長に伴って一つの葉身の中で外来遺伝子発現する細胞と発現しない細胞が現れてしまった問題の原因として,①外来遺伝子を発現している細胞と発現していない細胞が共に細胞分裂を続けている可能性,②成長に伴って外来遺伝子の発現がサイレンシングを受けている可能性の二種類が考えられる。①が原因である場合には,ハエトリソウに目的の外来遺伝子と共に抗生物質に対する耐性遺伝子を発現するベクターを導入し,抗生物質によってベクターを導入していない細胞の分裂のみを選択的に阻害することにより解決する計画を立案している。また,②が原因である場合には,強力に遺伝子発現を誘導するプロモーターがサイレンシングを受けやすいとされていることから,現在のユビキチンプロモーターをNOSプロモーター等の誘導する発現量の少ないプロモーターに改変することでサイレンシングを受けにくいベクターを作成する計画を立案している。また,ハエトリソウでは腺組織においてのみトルイジンブルー溶液が吸収されたが,記憶部位が腺組織以外にあった場合には薬剤添加による記憶の分子メカニズムの推定が難しいことから,腺組織以外の葉身の組織内へも薬剤溶液を吸収させる手法を確立する必要がある。トルイジンブルー溶液が吸収される腺組織ではクチクラギャップと呼ばれるクチクラ層の不連続性が確認されていることから,クチクラを介さない薬剤溶液の添加が有効であるとの仮説を立て,今後は①葉を葉柄部分で切断し,切断面より薬剤溶液を吸収させる,②根から薬剤溶液を吸収させる,③界面活性剤により葉身の脂溶性成分を除いた上で薬剤溶液を添加する,という3種類の方法により薬剤添加を試みる。
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Causes of Carryover |
安定した形質転換系の確立に時間がかかっているため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来演度以降、当初予定に基づいて執行する。
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