2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K14774
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
水波 誠 北海道大学, 理学研究院, 教授 (30174030)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 学習 / 記憶 / コオロギ / 昆虫 / ドーパミン / オクトパミン / ゲノム編集 / アデニル酸シクラーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
実験1.OA1オクトパミン受容体ノックアウトコオロギの作成:報酬学習に関わると考えられるオクトパミン受容体OA1のノックアウトコオロギをCRISPR/ Cas9法を用いての作成を数度にわたって試みたが、現在のところは変異コオロギ系統の作出には成功していない。今後も条件を変えながら粘り強く実験を続けていく。
実験2. Dop1ドーパミン受容体ノックアウトコオロギの行動学的解析:すでに作出に成功しているDop1ドーパミン受容体ノックアウトコオロギを用いた行動解析は進展があった。この系統を用いてDop1ドーパミン受容体の学習に果たす役割についての解析を行った結果、Dop1ドーパミン受容体ノックアウトコオロギは仲間の存在から報酬の存在を予期する報酬性の社会学習はできるが、仲間の行動から罰の存在を予期する罰性の社会学習ができないことが明らかになってきた。この成果は社会学習の神経基盤についての新規な知見をもたらす重要な成果である。
実験3. AC1及びAC8アデニル酸シクラーゼのノックダウンコオロギの作成と解析:次の研究課題としてAC1及びAC8アデニル酸シクラーゼのノックダウンコオロギを作成し解析を進めた。アデニル酸シクラーゼは学習に深く関わる酵素で、コオロギには8つのアイソフォームがある。そのうちAC1とAC8は、カルシウム/カルモジュリンとGタンパク質の両方によって活性化されるという性質があり、ショウジョウバエやアメフラシの古典的条件付けにおいては条件刺激と無条件刺激が同時に到達したことを検知する分子として働くとの報告がある。本研究では、この分子のコオロギでの匂い学習における役割を明らかにするために、RNAi法を用いてAC1及びAC8アデニル酸シクラーゼのノックダウンコオロギの作成し、学習への影響について調べた。これまでのところは、これらのコオロギにおいて学習障害は確認されていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の第一の目標としたのはゲノム編集技術を用いたOA1オクトパミン受容体ノックアウトコオロギの作成であったが、現在までのところは変異系統の作出には成功していない。これには受精卵へのRNAインジェクション操作の不良、ゲノム編集の設計の不備など幾つかの理由が考えられるが、条件を変えながらそれらの可能性を1つ1つ調べていきたい。 その一方では、すでに作成に成功しているDop1ドーパミン受容体ノックアウトコオロギについての解析では、他者の行動から学ぶ社会学習に障害が起こるという予想外の発見があった。これは社会学習の遺伝子機構を明らかにすることに繋がる画期的な発見であるといえる。 またゲノム編集技術を用いた研究の次のターゲット遺伝子として着目したAC1及びAC8アデニル酸シクラーゼについては、RNAiによるAC1及びAC8ノックダウンコオロギについての行動解析が進展した。これまでのところ、当初の予想とは異なり明確な学習障害が確認されていないが、さらにそれらの遺伝子のダブルノックダウンコオロギを作成して、解析を進めていける状況が生まれている。 それらを総合すると、本年度の進ちゃく度はおおむね期待どうりであると評価したい。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは初年度に始めた研究の完成をめざす。まずOA1ノックアウトコオロギの作成を粘り強く進める。またDop1ノックアウトコオロギを用いた社会学習におけるDop1ドーパミン受容体の役割についての解析をさらに進める。それに加えてAC1とAC8のダブルノックダウンオロギを作成して学習行動への影響を調べる研究を進める。ダブルノックダウンコオロギにおいて学習障害が確認された場合は、速やかにゲノム編集技術によるダブルノックアウトコオロギの作出に着手したい。 それらに加え次年度からは新たにFoxPという転写制御因子に着目した解析を始めたい。この遺伝子は哺乳類や鳥類において音声学習に関わる遺伝子であるが、コオロギもその遺伝子を持っており、その役割が注目される。まずRNAiによりこの遺伝子のノックダウンコオロギを作成して、匂いと水の連合学習における刺激のタイミングの情報の処理に障害が起こるかを調べる。もし興味深い学習障害が確認されれば、ゲノム編集技術を用いたノックアウトコオロギの作成へと研究を展開していく。 それらの研究を通してRNAiによる遺伝子ノックダウンコオロギやゲノム編集技術による遺伝子ノックアウトコオロギを用いた学習研究に格段の進展をもたらすことが本研究の目的であり、研究期間中に確たる成果を導けるよう努力したい。
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Causes of Carryover |
実験に必要な消耗品代が予想よりもやや少なかったため、ごく少額の次年度繰り越し金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の年度当初の消耗品代の一部として使用する。
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[Book] Cambridge Univ Press2016
Author(s)
Taya M, Vonkenburgh EV, Mizunami M, Nomura S.
Total Pages
523(44-57,143-149)
Publisher
Bioinspired Actuators and Sensors