2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K14804
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
千葉 聡 東北大学, 東北アジア研究センター, 教授 (10236812)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 保全 / 進化 / 外来種 |
Outline of Annual Research Achievements |
ニューギニアヤリガタリクウズムシが生息する父島北部―中部および沖縄において、ウズムシと共存するウスカワマイマイ、オナジマイマイ、オキナワベッコウマイマイ、ナハキビなどの外来陸貝を採集し、実験により外来捕食者に対する応答や誘引性を調べる実験を行った。またこれらの陸貝と同じ種を、ニューギニアヤリガタリクウズムシが分布していない母島などから採集し、同様な実験を行った。なおニューギニアヤリガタリクウズムシ自体は実験に利用するのに困難があったため、代用として、他の貝食性ウズムシを利用した。 上記の外来陸貝の捕食者の攻撃に対する応答を、行動実験によって調べた結果、ウスカワマイマイにおいて、ウズムシに攻撃された時の防御行動に違いが見られた。ニューギニアヤリガタリクウズムシの生息地から得られた個体は、それ以外の地域から得られた個体より、ウズムシの攻撃に対し敏感に応答し、殻を振るなどの防御行動を有意に高い頻度と強度で示した。このことから、捕食者に対する対抗適応が、外来種が渡来してからのごく短い期間に進化したことが推定された。陸貝の粘液のウズムシに対する誘引性を調べた結果、ニューギニアヤリガタリクウズムシの生息地から得られた個体は、それ以外の地域から得られた個体より、低い誘引性を示した。ただし、その違いは有意ではなく、粘液に関しては厳密に捕食者との共存の影響の有無について結論を下すまでには至らなかった。 次にウスカワマイマイの粘液物質を体表から採取し、プロテアーゼによってタンパク質を分解したのち、ウズムシに対する誘引実験を行ったところ、誘引性を示さなかった。この結果から、ウズムシは陸貝の粘液に含まれるタンパク質に誘引されているものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度は、ウズムシに対する陸貝の捕食回避行動と誘引のための実験系を構築し、実験を成功させることが大きな目標であったが、ウズムシと陸貝の活動性を適切にコントロールすることが実験を進めるうえでの大きな課題として存在していた。しかし、ウスカワマイマイを用いるとともに、ニューギニアヤリガタリクウズムシに近縁でより扱いの容易な別のウズムシを利用することにより、この問題を解決して、実験を行うことができた。今後、他の陸貝の種についても、同様なアプローチを用いて実験を行うことが可能である。 当初想定していた仮説は、外来捕食者と共存している陸貝は、短期間に捕食者に対する適応性を獲得するであろう、というものであった。28年度に行った研究の結果、ウスカワマイマイにおいて、ウズムシに攻撃された時の防御行動に、ニューギニアヤリガタリクウズムシの生息地から得られた個体とそれ以外の地域の個体の間で違いが検出されたことから、仮説は検証されたと言える。またウスカワマイマイの粘液物質を用いた実験から、ウズムシは陸貝の粘液に含まれるタンパク質に誘引されていることが示されたが、これも本研究が想定していた結果である。以上のような成果から、28年度においては、研究はおおむね順調に進んでいると判断できる。 ただし、陸貝の粘液のウズムシに対する誘引性に関しては、厳密に捕食者との共存の影響の有無について結論を下すまでには至っておらず、追加の実験が必要である。この点については、用いたウズムシがニューギニアヤリガタリクウズムシで無かったためである可能性もあり、追加実験の状況によっては、今後ニューギニアヤリガタリクウズムシを直接捕食者として利用した実験を進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度に行ったウスカワマイマイに加えて、他の陸貝の種についても同様な実験を行う。また誘引性の比較については、同じ種の地域間の比較に加えて、陸貝の異種間についても行う予定である。 粘液物質に含まれていたタンパク質が誘引物質となっていることから、含まれているタンパク質の同定を試みる。ウズムシに対する誘引性の違いとの関係を調べるため、誘引性をより正確に検出するための追加実験を行うほか、ニューギニアヤリガタリクウズムシを用いた実験も試みる。28年度に行った誘引物質の分析の過程で、ニューギニアヤリガタリクウズムシが分布している地域から得られたウスカワマイマイでは、軟体部の体積当たりに含まれる粘液量が、それ以外の地域から得られたものに比べ、多い傾向が認められた。このことから、捕食者のウズムシが生息する地域のウスカワマイマイは、粘液中の多糖類の比率を高めて、誘引性の高いタンパク質の誘引効果を弱めている可能性があると考えられた。そこで、誘引性の違いを検出する実験に加えて、この仮説を検証するために、粘液中におけるタンパク質の量比を明らかにする。また同様な粘液物質の分析や捕食者の攻撃を模した実験を、小笠原で現在人工繁殖に利用されているカタマイマイ類についても行い、その集団間の違いや種間の違いを分析する。その結果から、ニューギニアヤリガタリクウズムシの捕食に対して、抵抗性のより高い種や集団、個体の推定を行う。 以上の実験から得られた結果に基づいて、ウズムシの捕食に対する陸貝の進化的応答の現況をとりまとめる。そしてその知見を利用して、ニューギニアヤリガタリクウズムシの影響を受けている小笠原在来のカタマイマイ類の保全に応用するための方策を提案する。
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Research Products
(1 results)