2016 Fiscal Year Research-status Report
従属栄養者を必要とする微生物の新しい独立栄養様式の発見
Project/Area Number |
16K14812
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
春田 伸 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (50359642)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 共生 / 光合成 / 独立栄養 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者が発見した光合成細菌と発酵細菌の共生系を基盤に、共生関係の種特異性を調査するとともに、共生関係に影響を与える条件を探った。緑色糸状性光合成細菌Chloroflexus aggregansの共生者として、複数株の発酵細菌Fervidobacterium ripariumを用いて共培養を試行したところ、いずれの株でも同様の共生効果が見られた。さらに、これら共生系について、照射する光量、および、培地に添加する硫化ナトリウム量、の影響を解析し、共生増殖に対する最適範囲を見出すことができた。また、共生生育時の、緑色糸状性光合成細菌C. aggregansと発酵細菌F. ripariumの細胞比は、約100:1であることを明らかにした。 加えて、同一の温泉環境から新たに分離した発酵細菌Thermovorax sp.についても試験し、F. ripariumと同様の共生作用があることを見出した。ただし、F. ripariumと比較して、Thermovorax sp.との共培養では、C. aggregansの生育がより活発であった。さらに、C. aggregansとF. ripariumの共生系では、両者の細胞が寄り集まり、強固な細胞凝集体を形成したのに対し、C. aggregansとThermovorax sp.の共培養では、分散性が高く、これら二種の発酵細菌間での違いが明らかになった。 C. aggregansのゲノム情報の解析を進め、共培養条件における転写解析系を設計した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
緑色糸状性光合成細菌Chloroflexus aggregansの共生者として、発酵細菌Fervidobacterium ripariumの複数株を用いて試験したところ、いずれの株でも類似の共生効果が見られた。照射する光量、および、培地に添加する硫化ナトリウム量、の影響を解析し、共生増殖に対する最適範囲を見出すことができた。共生生育時の細胞比を測定したところ、緑色糸状性光合成細菌C. aggregansと発酵細菌F. ripariumは、約100:1であった。このように、申請者が発見した光合成細菌と発酵細菌の共生系を基盤に、共生者の相性を調べ、共生系の培養条件を最適化することができた。 さらに、同一の温泉環境から新たに分離した発酵細菌Thermovorax sp.についても同様に試験したところ、F. ripariumとの共生時よりも、C. aggregansの旺盛な生育が見られた。また、C. aggregansとF. ripariumの共生系では、両者の細胞が寄り集まり、強固な細胞凝集体を形成したのに対し、C. aggregansとThermovorax sp.の共培養では、分散性が高いなど、新たな知見を得ることができた。 加えて、C. aggregansのゲノム情報の解析を進め、共培養条件における転写解析系を設計するとともに、共培養系のガス組成の分析結果も踏まえ、代謝フロー解析の準備を進めることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
共生機構の解明にむけて、初年度得られた共生者、共生条件をもとに、炭酸固定細菌の転写物を網羅的に解析するとともに、炭酸固定反応に関わる各種酵素活性を測定し、代謝経路を推定する。共生系への炭素の取り込みを定量するとともに、種間での物質授受を同定する。共生系において細胞外に分泌される物質を採取・分画し、従属栄養者による生育補助因子の供給や生育抑制因子の除去にも注目し、炭酸固定細菌の独立栄養生育に与える影響を評価する。また、共生増殖は、光量および硫化ナトリウム量に影響されたことから、共生関係は、特に光合成細菌の細胞内還元状態に強く左右されることが示唆されている。そこで、炭酸固定反応に影響を与えると予想される細胞内のATP量、酸化還元状態(NAD+:NADH比)、光合成活性を測定する。また細胞内代謝物をGC-MSを用いて網羅的に解析することで、生産と消費の代謝バランスを明らかにする。同時に、従属栄養者の生育や作用に関して、炭酸固定細菌からの排出物質の利用性や生育・代謝への影響を明らかにする。 以上から、共生系における二種細菌による代謝経路について、遺伝子の転写制御系を含めた全体像を描くことで、共生機構を総合的に理解し、従属栄養者の役割を解明する。さらに、C. aggregansを用いて得られる知見が他の光合成細菌にも適用可能かどうかについて検討し、環境における光合成の代謝生理の理解の一般化を図る。
|
Causes of Carryover |
次世代シーケンサ等を活用した転写解析や同位体化合物を利用した代謝経路解析を計画していたが、培養系の確立と最適化を幅広く検討したため、予定よりも時間を要し、これら高額な解析に必要な支出が抑えられた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
解析を進めるのに充分な培養条件が確立できたため、年度当初から、次世代シーケンサ等を活用した転写解析や同位体化合物を利用した代謝経路解析を進める予定であり、今年度の早い時期に、使用する計画である。
|