2016 Fiscal Year Research-status Report
水圏微生物による光毒素クロロフィルの無毒化メカニズムの究明
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16K14813
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Research Institution | Fukui University of Technology |
Principal Investigator |
柏山 祐一郎 福井工業大学, 環境情報学部, 教授 (00611782)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷藤 吾朗 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究員 (70438480)
中澤 昌美 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 助教 (90343417)
矢吹 彬憲 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生物多様性研究分野, 研究員 (20711104)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | クロロフィル / プロティスト / クロロフィル分解 / 微生物間相互作用 / CPE代謝(シクロエノール代謝) |
Outline of Annual Research Achievements |
クロロフィル分解代謝の分子生物学的ないし生化学的な解明を目指す本研究の2年間の期間の1年目である平成28年度には,研究代表者である柏山を軸として,分担研究者それぞれとの間で萌芽性の高いテーマを選んで実施した。すなわち,柏山と谷藤は,シアノバクテリアを餌として増殖するケルコゾアParacercomonas sp. KMO002株を環境試料中から分離して,この生物がクロロフィルを無毒化する分解代謝であるCPE代謝をおこなうことを確認した。さらに,KMO002株とシアノバクテリアSynechococcus elongates PCC 7942の二員培養系を確立し,現在,KMO002株のRNA-seq解析に向けて準備を進めている。また,Synechococcus sp. NIES-969などを餌として増殖するGoniomonas sp. SNK003株(柏山らが28年度に分離)に関しても,CPE代謝が確認され,同様にRNA-seq解析に向けて準備を進めている。また,KMO002株に近縁な二次植物であるクロララクニオン藻で葉緑体分解に伴うCPE代謝を発見した。このため,クロララクニオン藻のRNA-seq解析も視野に入れ,適切な培養株の選別をおこなった。 柏山と中澤は,CPE代謝が確認されている二次植物であるEuglenophyceaeに近縁な微細藻類捕食性のRapaza viridisについて,Euglena gracilisで中澤が確立したRNAiノックダウンの手法の応用を目指して検討を進めた。また,柏山と矢吹は,矢吹が吸収栄養性の培養株として確立した各種Diplonemidaの微細藻類捕食,特に,Prochlorococcus marinusなどの外洋性の微細なシアノバクテリアとの共培養系の確立と,これに伴うクロロフィルの分解代謝の確認を目指して検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度には,(実施項目1)微細藻類食プロティストの二員培養株の確立とHPLC/MS/MS実験系の構築,および(実施項目2)RNA-seqデータベースの収集・構築と解析およびRNAiノックダウン実験のための培養株の選択までを目標とした。実施項目1のうち,二員培養株の確立に関しては順調に進んで, 3種類の異なる真核生物スーパーグループに属する系統で,RNA分析やRNAiノックダウン実験に適したシアノバクテリアとの二員培養株を確立することができた。さらに,現在は一歩進んでRNA-seq解析に向けた実験を開始している。一方で,HPLC/MS/MS実験系の構築は遅れており,実質的に29年度に持ち越すこととなった。 実施項目2に関しては,公開されている既存のデータベースには微細藻類捕食性のものに関しては十分でないと判断したため,上述のように,方向性を転換して自分たちで複数の系統でRNA-seq解析をおこなう方向性で進展している。なお,当初微細藻類捕食性のユーグレノイドとしてRNA分析やRNAiノックダウン実験の対象として検討を開始したRapaza viridisについては,CPE代謝をおこなうことを確認したほかに,他の微細藻類捕食性生物には知られていない,ユニークな現象を発見するに至り,当初の計画とは方向性がやや異なるものの,現在,クロロフィルを含有する色素体に関するこの現象について,より詳細な研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度には,まず,前年度のやり残した課題であるHPLC/MS/MS実験系の構築をおこなう。そして,CPE代謝産物が認められず,未知のクロロフィル代謝分解の存在が予想されている微細藻類捕食性のプロティストに関して,分析を試みる。 一方,本研究課題の目玉として,無色プロティストのRNA-seq解析とRNAiノックダウン実験を強力に推し進める。具体的には,まず,複数のシアノバクテリア食プロティストのRNA-seq解析を進める。特に,シアノバクテリア食と吸収栄養の切り替えが可能なKMO002株やSNK003株については,それぞれの培養条件のトランスクリプトームデータを比較することで,クロロフィル代謝に関わる遺伝子の候補を洗い出す。これら候補遺伝子のRNAiノックダウンにより,クロロフィル代謝異常のフェノタイプをスクリーニングし,CPE代謝に関わる遺伝子の特定をおこなう。なお,本研究を加速させるため,平成29年度から横山亜紀子博士を分担研究者に追加した。
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Causes of Carryover |
分担者である中澤は,当初,平成28年度予算として150,000万円の分担を受け,主に,柏山と共同で,クレード全体でCPE代謝が確認されているユーグレノイドのRNAiノックダウンの手法の応用を目指したが,対象としたRapaza viridisについて,派生的な研究の必要が生じたため,当初の計画から変更があり,予定していた試薬類の購入の一部を控えた。また,中澤の産休前の期間には,体調を考慮して,ミーティングへの出席を控えてもらい,旅費に余剰が生じた。これらにより101,832円の繰越しをおこなった。 分担者である矢吹は,当初,平成28年度予算として150,000万円の分担を受け,主に,柏山と共同で,Diplonemidsのシアノバクテリアとの二員培養系の確立し,生化学的な研究基盤の構築を目指したが,前者の進捗に時間を要し,後者のための試薬類の購入の一部を控えたため,48,224円を繰越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
中澤分の繰越しに関しては,前年度の計画を引き継いで捕食性ユーグレノイドのRNAiノックダウンの実験系の検討を進めるため,繰越し分はこのための試薬類の購入費に充てる予定である。なお,中澤は期間の前半は産休で研究に参画できないため,平成29年度分の助成金の請求額は50,000円とし,昨年度の繰越し101,832円とあわせて,産休を考慮して修正された研究計画の推進を目指す。 矢吹分の繰越しに関しては,矢吹は平成29年度に重点課題として計画している捕食性プロティストのRNA-seq解析に新たに参画するにあたり,必要な試薬類の購入に充てる予定である。
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Research Products
(8 results)