2016 Fiscal Year Research-status Report
光受容体の改変による避陰応答の回避と密集地での生産性向上への挑戦
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16K14830
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
吉原 静恵 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20382236)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
徳本 勇人 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (70405348)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 避陰応答 / フィトクロム / 光受容体 / 有用遺伝子組換え植物作出 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究目的:植物が木陰を避けて伸長し、より多くの光を得ようとする「避陰応答」は、農作物の場合は見た目と栄養価が下がるため好まれない。赤・遠赤色光受容体フィトクロム(phytochrome)が避陰応答の制御に関わっており、赤色光を感知すると活性型フィトクロムPfrによって避陰応答は抑制される。一方、木陰の光に多く含まれる遠赤色光を感知すると不活性型Prに戻り避陰応答を示す。これまでに、植物の避陰応答を回避するためにフィトクロムの過剰発現や、Pfr型の安定化など、多くの試みがなされてきた。ジャガイモやサツマイモでは生産性の向上が認められたが、イネやトマトでは矮性化した結果、収量は減少した。活性型Pfrの比率の増加や、夜間の不活性化などの必要性が挙げられる。 本研究では、フィトクロムの吸収特性を改変することによって木陰におけるPfr比を増加させ、避陰応答を回避する植物の構築を目指す。Pfrを増やすための手段として、フィトクロムの吸収波長を操作する例はないため斬新な試みである。この目的のために、(1)吸収特性を決定する分子内構造を調べるための生化学的実験、(2)吸収特性を改変した光受容体を導入した植物の避陰応答の評価、を行う。 研究計画:申請者は、phyCがphyBよりも10 nm以上短波長の光で活性化されることを見出した。植物の避陰応答で主要にはたらくphyBにphyCの吸収特性をもたせることを計画している。さらに、より木陰の光環境に適した吸収特性を示す藻類のフィトクロム(PHY1)の導入も計画している。まず、(1)吸収特性を決定する分子内領域を決定するために、phyBとphyCまたはPHY1の領域を入れ替えた様々なリコンビナントタンパク質を調製する。次に、(2)Iで決定した領域を導入したphyBをシロイヌナズナphyB欠損株に導入し、避陰応答への影響を調べる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)吸収特性を決定する分子内領域の決定 フィトクロムの発色団フィトクロモビリン(PΦB)は、PAS-GAF-PHYという3つのドメインが形成するポケットに存在し、GAFドメインに保存されたCys残基に共有結合している。シロイヌナズナphyB Pr型の結晶構造と、様々な植物フィトクロムのアミノ酸配列をもとに、phyC固有の吸収特性を与える残基や領域を推察した。PΦBに近接する残基は、すべて植物フィトクロムの間で高度に保存されていた。PΦB と直接相互作用しないが、phyC固有の残基をすべてphyAまたはphyBの間で置換したタンパク質の吸収スペクトルを調べた結果、PHYドメインからPΦBに伸びるループ構造上の残基がphyC特性を与えることを明らかにした。このループ構造は上記の結晶構造では不安定性ゆえ特定できていないが、変異タンパク質の吸収スペクトルが短波長にシフトする、Pfrへの光変換効率が下がるなどの報告があるため、フィトクロムの光スイッチ機能に重要な領域である。一方、PΦBを結合するGAFドメインをphyCとphyBの間で入れ替えたキメラタンパク質を作成した結果、phyCのGAFドメインをもつphyBはphyCの吸収特性を、phyBのGAFドメインをもつphyCはphyBの吸収特性を示した。これらの結果は、GAFドメインとPHYドメインのループ構造がphyCの吸収特性を決定していることを示している。 (2)フィトクロム改変植物の作成と避陰応答 短波長側の光で活性化されるphyBをシロイヌナズナで発現させるために、phyCのGAFドメインと、さらに短波長の光で活性化されることが示されているプラシノ藻のフィトクロムPHY1のGAFドメインをphyBのものと入れ替えたコンストラクトを作成した。現在、シロイヌナズナphyB欠損株に導入し、避陰応答への影響を調べようとしている。
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Strategy for Future Research Activity |
フィトクロムは、赤色光を受容するとPfr型に変換して核へ移行し、PIF (phytochrome-interacting factor)と呼ばれる転写因子と相互作用することによって、避陰応答を含む様々な光形態形成に関わる遺伝子の転写をPIFに拮抗して制御している。 現在、phyC、またはPHY1のGAFドメインと入れ替えたキメラphyB発現コンストラクトをシロイヌナズナphyB欠損株に導入する準備を進めている。野生株と同程度の変異phyBタンパク質を合成する株を選抜し、日なたと木陰の光条件における以下の項目を調べることによって、避陰応答への影響を評価する。日なたの光条件を再現するために白色と赤色のLEDを、木陰の光条件を再現するために緑色と遠赤色のLEDをそれぞれ組み合わせた光源を用いる。 1.生育・・・植物体の背丈や傭兵の長さ、葉の面積、さらに生産性向上の評価のために、個体あたりの重量、鞘、種子の数を計測する。本研究で作成した改変phyB発現株が、木陰においてより強い光形態形成と高い生産性を示すと考えられる。 2.光合成活性・・・葉の面積あたりのCO2の取り込み、クロロフィル量などを調べ、光合成活性への影響を評価する。本研究で作成した改変phyB発現株が、木陰において、より高い光合成活性を示すと考えられる。 3.遺伝子発現・・・PIFを介してフィトクロムにより光依存的に転写が制御される遺伝子、オーキシン合成酵素など、について日なたと木陰における転写レベルをqRT-PCRにより調べる。本研究で作成した改変phyB発現株が、木陰において、より強くPIFの機能を阻害すると考えられる。次世代シーケンサーで日なたと木陰の遺伝子転写を網羅的に調べることも検討している。
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Causes of Carryover |
研究計画は順調に進んでおり、予定通りに予算を使用することができた。しかし、年度内に論文投稿ができなかったため、英文校閲や投稿費用の予算を次年度に使用することになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度に、昨年度予定と合わせて2報以上の論文投稿に使用する予定である。
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