2016 Fiscal Year Research-status Report
ナノ粒子利用によるダイズ生育初期における湿害の改善法の開発
Project/Area Number |
16K14841
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
小松 節子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 次世代作物開発研究センター 基盤研究領域, ユニット長 (90355751)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ストレス応答反応 / ナノ粒子 / ダイズ / 湿害 / プロテオミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国におけるダイズの自給率は低く、その向上のために水田転換畑を活用して増産を図ることが必須である。しかし、ダイズの出芽期の梅雨による湿害は、複合要因に起因し生育阻害が障害になって、生産拡大が進んでいない。生産性の安定・向上のためには、栽培環境の改善に加えて、ダイズに耐湿性を付与することが重要である。固体とは異なった物理的・化学的特性を示すナノ粒子を利用して、植物における機能発現に至る機構を解明し、ダイズにおける湿害を改善する技術を開発する。 ダイズ出芽期の湿害による生育遅延を改善するためにナノ粒子を利用する。本研究の骨格として(1)ダイズ湿害発生時におけるナノ粒子の影響を形態学的・植物生理学的に解析する、(2)ダイズ湿害発生時におけるナノ粒子の影響をタンパク質科学的に解析する、(3)ナノ粒子添加により変動するタンパク質群利用によるダイズ湿害耐性機構を解明する、(4)顕著に変動するタンパク質群利用によるダイズの湿害評価を行う。ナノ粒子として、ナノ銀とナノアルミナを中心に利用し、タンパク質科学的解析として、ゲルフリー・ラベルフリーデファレンシャルプロテオミクス解析技術を用いる。 本課題終了時に次の2点を目指す。(1)ナノ粒子によるダイズ出芽期の湿害応答を制御する機構の解明:ダイズ出芽期の冠水時における、ナノ粒子によるタンパク質間相互作用や細胞内局在性を解析し、冠水下でのダイズの生育遅延の改善におけるナノ粒子の役割をタンパク質レベルで解明する。(2)ナノ粒子によるダイズ出芽期の湿害を改善する技術の開発:ダイズの生長に対するナノ粒子のサイズ・濃度特異性や器官・細胞内局在性、効果の時期特異性を解析し、ナノ粒子利用によるダイズ出芽期における湿害を改善する技術を提案する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1.ダイズ湿害発生時におけるナノ粒子の影響の形態学的・植物生理学的解析 (1)ナノ粒子は、比表面積が極めて大きいこと、量子サイズ効果によって特有の物性を示すことから、ナノ銀(2, 15, 50-80 nm)、ナノアルミナ(5, 30-60, 135 nm)、ナノ亜鉛等を用いて、さらに、濃度依存性と時期特異性を、形態学的・植物生理学的に測定した。結果として、ナノ亜鉛や高濃度のナノ粒子は伸長を抑制するが、50ppmの30-60 nmナノ酸化アルミニウムは、根の伸長を促進した。(2)ダイズの出芽期の冠水ストレスにおいて、ユビキチン・プロテアソーム系のタンパク質群が変動することが明らかになっているので、ナノ粒子処理後、エバンスブルーの取り込みを測定し、細胞死の発生程度を解析し湿害の緩和程度を数値化した。ナノ酸化アルミニウム添加により、冠水下で細胞死を抑制することにより、冠水ストレスを軽減していることが示唆した。 2.ダイズ湿害発生時におけるナノ粒子の影響のタンパク質科学的解析 (3)出芽期のダイズを用いて、(1)で冠水による生育遅延を改善したナノ粒子を用いて、無処理群、冠水処理群、冠水処理+ナノ粒子処理群を設定し、経時的にタンパク質を抽出し、ゲルフリー・ラベルフリーデファレンシャルプロテオミクス解析した。得られたタンパク質群を、代謝マップ上にプロットした。冠水処理により、解糖系、嫌気代謝系およびクエン酸回路等が促進するが、ナノ酸化アルミニウムにより抑制されることが明らかになった。(4)上記と同じ条件下で、ミトコンドリア画分を精製し、精製効率を測定後、ゲルフリー・ラベルフリーデファレンシャルプロテオミクス解析を行い、ナノ粒子の器官特異的機作を明らかにした。サイズ依存的にATP産生に関与していることを解明した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.ナノ粒子添加により変動するタンパク質群利用によるダイズ湿害耐性機構解明 (1)既に平成28年度に同定されたナノ粒子添加により変動するタンパク質群の蓄積量の経時的変化を用いてクラスター解析を行い、ナノ粒子添加によるタンパク質の変動パターンから、ダイズ湿害機構および湿害耐性機構を推定する。(2)クラスター解析後、情報科学的にタンパク質間相互作用を解析し、ナノ粒子の機能発現の鍵となるタンパク質群を絞り込む。特に酵素群においては、酵素活性を指標とした確認実験を行う。 2.顕著に変動するタンパク質群によるダイズの湿害評価 (3)冠水抵抗性ガンマ線照射突然変異ダイズ、アブシジン酸処理による冠水耐性ダイズ、およびナノ粒子添加ダイズを用いて、(1)で同定されたタンパク質の抗体あるいは特異的プライマーを用いて、その発現の強弱を解析する。(4)ダイズにおいて明らかになったナノ粒子の影響をもとに、湿害に弱いコムギ等の他作物における作用機構との差異を評価し、その利用を示唆する。
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