2016 Fiscal Year Research-status Report
下流制御因子の同定によるノンクライマクテリック型果実の成熟・老化制御機構の解明
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16K14853
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
中野 龍平 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (70294444)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 果実成熟 / 老化 / イチゴ / 転写因子 / ノンクライマクテリック型 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、成熟や老化にエチレンが関与せず、その制御機構が不明なノンクライマクテリック型果実に関して、制御機構の下流では、エチレンシグナル伝達系と同様の因子が関与していると仮定し、エチレンシグナルを含む様々なシグナルのハブとしての役割を持つEIN3/EILsおよびその下流において働くmiRNA164とNAC転写因子に注目し、以下の結果が得られている。 I) EIN3/EILs抑制RNAi個体の育成と解析 イチゴ2倍体野生種F. vescaのゲノム内に存在する5つのEIN3/EILsの内4つで発現が検出され、特に、Fv-EIL1の発現量が葉と果実において高かった。EIN3/EILsの保存領域をhair-pin構造に利用したRNAi個体を作成したところ、Fv-EIL1が抑制されており、他のホモログの抑制されていなかった。このRNAi個体では、エチレンによる葉の黄化が抑えられ、一方では、果実成熟や老化には影響がなかった。Fv-EIL1はエチレン応答や葉の黄化へ関与し、一方、他のホモログの果実成熟を含む別のシグナル伝達への関与が示唆された。Fv-EIL5のみ抑制するRNAiや4つのFv-EILsの一部を繋いだRNAiコンストラクトを作成した。 II) NAC転写因子の成熟制御への関与の解析 イチゴのmiRNA164のターゲット配列を持つNAC転写因子として、NAC38、NAC87、NAC-SFに着目し、その発現量変化を調査した。その結果、果実成熟に伴いNAC-SFの発現量が100倍以上に増加していた。NAC38とNAC87は成熟に伴い減少していた。これより、NAC-SFは正の制御因子として、NAC38とNAC87は負の制御因子としてそれぞれ成熟への関与の可能性が示された。特に、NAC-SFに関して、F. vescaおよび栽培イチゴにおいてRNAi個体の作成を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、以下の2項目に関して、研究を実施したが、記載のように概ね順調に進展している、 I) EIN3/EILs抑制RNAi個体の育成と解析 本研究では、まず、EIN3/EILsの保存領域として、Fv-EIL1由来の配列をhair-pin構造に利用したRNAi個体の作成に成功している。これまで、Fv-EIL1のみ抑制された個体が出現した。この個体では、エチレン応答は抑制されてたが、成熟には影響はみられておらず、Fv-EIL1がエチレン応答に、他のホモログが果実成熟など他のシグナル伝達に関与している可能性が示された。通常RNAi個体においては、世代を経ることにより、サイレンシングは強くなる傾向があり、この結果は予定通りである。今後、このRNAi個体の後代より、他のホモログも抑制された個体が得られ、他のホモログの果実成熟などエチレン以外のシグナルへの関与が明らかになるものと期待される。本研究では、さらに、他のホモログとの相同性が低いFv-EIL5のみ抑制するRNAi個体の作成や、発現が検出された4つのFv-EIlsを繋げたコンストラクトにより、同時に抑制するRNAi個体の作成の準備も進めており、予定通りに研究は進んでいる。 II) NAC転写因子の成熟制御への関与の解析 miRNA164のターゲットとして注目していた3つのNAC転写因子は、いずれも、果実の成熟に伴い発現量の変化が観察されており、成熟に関与が示された。特に、NAC-SFは果実成熟に伴い発現量が100倍状に増加しており、果実成熟の正の制御因子として期待できる。このNAC-SFについて、2倍体モデルイチゴ野生種F. vescaに加えて8倍体の栽培イチゴにおいても、その発現を抑制するRNAi個体の作成を進めている。このRNAi個体の成熟様相や成熟関連遺伝子の発現解析により、NAC-SFの成熟への関与が明らかになると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
ノンクライマクテリック型果実であるイチゴの成熟や老化への、EIN3/EILsおよびその下流において働くmiRNA164とNAC転写因子の関与の解明を目指し、以下の研究を実施する。 I) EIN3/EILs抑制RNAi個体の育成と解析:これまでに作成したEIN3/EILsの保存領域をhair-pin構造に利用したRNAi個体について、サイレンシングが広範となることが期待される後代を育成し、そのRNAi後代における、果実成熟、老化を調査すると伴に、Fv-EIL1以外のEIN3/EILsの抑制状況を解析する。このRNAi後代では、十分な表現型やサイレンシングが得られなかった場合を想定して、Fv-EIL5のみ抑制したRNAi個体やFv-EILsをタンデムにつなぎ合わせたコンストラクトを利用したRNAi個体の作成と解析を進める。 II) NAC転写因子とmiRNA164の成熟制御への関与の解析:特に、成熟に伴って発現量が100倍に増加するNAC-SFに関して、そのRNAi個体を作成する。EIN3/EILsとNAC転写因子との関連を解明するために、I)にて作成されたEIN3/EILsの抑制個体における、NAC-SF、NAC38、NAC87の発現を解析する。また、miRNA164との関与について、ウィルスベクターなどを利用した一過的な発現誘導などを試みる。 III)イチゴ成熟時の遺伝子発現の網羅的解析:イチゴの果実成熟に伴う、遺伝子発現量変化の網羅的解析を進める。これまでに注目している3遺伝子以外に成熟に関与するNAC転写因子を探索するとともに、EIN3/EILsやNAC-SFなどにより制御されている遺伝子群について、I)やII)において作成されたRNAi個体を用いて解析するための基礎的なデータを得る。
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Causes of Carryover |
RNA-Seqなどによる成熟関連遺伝子の解析に関して、海外の研究グループなどにより通常のイチゴ果実の成熟に伴うプロファイリング結果を参考に、本研究のRNAi個体での解析を検討していたが、通常の果実でのプロファイリングが報告されなかった。また、EIN3/EILs抑制RNAi個体において、成熟および老化の抑制が観察された場合に、香り成分の分析や成熟関連遺伝子の網羅的解析を予定していたが、本年度の段階では、葉の黄化の抑制は観察されたものの成熟や老化への影響は観察されなかったために、さらなる、RNAi個体の作成に注力し、これらの解析を次年度以降に実施することに変更した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
イチゴのゲノム解析においては、モデルとしての2倍体野生種ではなく、通常の栽培種でのデータベースが充実してきているが、成熟に伴う遺伝子発現解析は、他の研究グループからも報告されていない。そこで、成熟関連遺伝子の網羅的解析に関して、通常のイチゴ果実の成熟に伴う解析を進める。これにより、EIN3/EILs抑制RNAi個体の後代、Fv-EIL5の抑制個体、NAC-SFの抑制個体など、よく多くの成熟や老化への影響が観察される可能性の高い解析用個体の作成しており、これらの個体において明確な表現型が観察された際に、すみやかに、その下流において働いている遺伝子群の解析が可能な状況を整えることに使用する計画である。また、この解析により、これまで着目してきた3つNAC遺伝子の発現の確認とともに、3遺伝子以外にも成熟に関連するNAC転写因子の探索に活用する計画である。
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