2016 Fiscal Year Research-status Report
インフォマティクス手法によるキー転写因子の推定法の確立
Project/Area Number |
16K14857
|
Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
藤井 浩 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹茶業研究部門 カンキツ研究領域, 主席研究員 (00355398)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 転写因子 / 遺伝子ネットワーク / カロテノイド / カロテノイド代謝系 / マイクロアレイ / 遺伝子発現解析 / 植物ホルモン / ウンシュウミカン |
Outline of Annual Research Achievements |
マイクロアレイデータを用いて,カロテノイド代謝制御に関連する転写因子候補群を包含する遺伝子ネットワークを推定し,最上流に位置する転写因子を特定するインフォマティクス手法を確立することが,本研究の目的である. 平成28年度の計画は,遺伝子ネットワーク推定のための入力データとなるウンシュウミカン果実に由来するマイクロアレイデータの取得を行うことである. 平成29年度は,平成28年度に得られたマイクロアレイデータと過去に得られたマイクロアレイデータとを合わせて,遺伝子ネットワーク推定ソフトウエアに投入し,カロテノイド代謝系制御を最もよく説明する遺伝子ネットワークを推定するとともに,最上位に位置する転写因子を特定することにより,インフォマティクス手法による転写制御の解明をめざす. 現在行われているexpression-QTLのような遺伝統計学的な方法では,代謝酵素遺伝子を制御する転写因子候補をリスト化するとはできても,代謝制御の上下関係を示すことができない.また,実験的な方法による転写制御の上位下位性の解明は,時間がかかるか,困難であることがほとんどである.このため,本研究ではインフォマティクス手法により転写制御の上位下位性の解明のための手法の確立を図ることを目的としている. 平成28年度は,計画通り,ウンシュウミカンのさじょうに7種類の植物ホルモン処理と3段階の温度処理を行い,さじょうを対象にしたマイクロアレイ解析を行い,32実験分のマイクロアレイによる遺伝子発現データを計画通りに取得することができた.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の目的は32実験分のマイクロアレイデータを得ることである.当初の計画では,露地におけるウンシュウミカン果実を成熟に沿ってサンプリングを行い,その果肉を対象にしたマイクロアレイ解析を行うことにしていた.しかし,露地のサンプリングでは,気象条件の変動が遺伝子発現に大きく影響することが予想され,そのことが遺伝子発現のノイズとしてカロテノイド代謝制御に関わる遺伝子ネットワーク推定を困難にするのではないかという懸念が生じた. 一方,ウンシュウミカン果実のさじょうをインキュベータ内で培養する技術を利用することができるようになり,安定した環境で安定した遺伝子発現が期待される培養さじょうを対象にしたマイクロアレイ解析を行うことにした.カロテノイド代謝はカンキツ果実の成熟に関連しており,植物ホルモン制御や温度や光のような物理条件と関わりがある.そこで,マイクロアレイ解析にあたり,植物ホルモンと温度処理に重点を置いた. 具体的には,ウンシュウミカンのさじょうを7種類の植物ホルモン,ジベレリン,オーキシン,エチレン,ブラシノライド,サリチル酸,ジャスモン酸,サイトカインそれぞれを含む培地で,20℃の条件下で,24,48,72時間培養し,それぞれの植物ホルモンおよび培養時間でのさじょうを回収した.また,植物ホルモンを含まない培地で,15,20,30℃の温度条件下で,24,48,72時間培養し,それぞれのさじょうを回収した.対照区も含めて,回収した32処理区のさじょうから得たmRNAを独自に開発したカンキツの全遺伝子マイクロアレイを用いて発現解析を行なった.得られたマイクロアレイによる遺伝子発現解析結果を評価したところ,いずれも十分なクオリティで発現解析が行われていた. 上記のとおり,平成28年度は32実験分のマイクロアレイによる遺伝子発現データを計画通りに取得することができた.
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に得られた32実験分のカンキツの全遺伝子マイクロアレイデータと過去に得られている68実験分のマイクロアレイデータの合わせて100実験分のデータを投入データとして,遺伝子ネットワーク推定ソフトウエアであるSiGN-BNを用いて,遺伝子ネットワークを推定する. SiGN-BNは,同時に投入できる遺伝子数が1000個に限定されているので,1000遺伝子で構成される30種類の遺伝子セットを作成して投入データとし,遺伝子ネットワーク推定のための計算を繰り返す.各遺伝子セットの組み合わせは,カロテノイド代謝酵素遺伝子,既往の成果として得られているカロテノイドを制御すると推定されている転写因子候補およびマイクロアレイに搭載されている約2000個の転写因子から選抜することとする.得られた30種類の遺伝子セットについて,SiGNを用いて遺伝子ネットワーク推定を行う. 上記で推定された遺伝子ネットワーク候補を構成する遺伝子について,ネットワーク内での重要性を評価し,重要性の高い遺伝子を選抜することにより,投入遺伝子セットを再構成し,再構成した遺伝子セットをSiGNに投入して遺伝子ネットワーク推定計算をする.この過程を繰り返すことにより,カロテノイド代謝制御を最もよく説明する遺伝子ネットワークを選定し,最上流に位置する転写因子を特定する.
|
Causes of Carryover |
平成28年度は契約職員の採用が遅れたため,人件費・謝金の支出額が想定よりも少なかった.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は年度当初から契約職員を雇用するため,人件費・謝金として支出する.
|