2016 Fiscal Year Research-status Report
細胞特異的なβバレル膜孔形成タンパク質性ナノツール設計の分子・構造基盤の確立
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16K14897
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
金子 淳 東北大学, 農学研究科, 准教授 (30221188)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | タンパク質工学 / βバレル形成機能 / ナノツール |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では黄色ブドウ球菌の産生する二成分性β-PFT(Hlg/Luk)を用い、毒素の自律的細胞膜挿入βバレル形成機構を解明し、任意の生体膜上にナノサイズ膜孔を形成するタンパク質の分子設計を行うための分子基盤を確立する。そのために、1)prestemが2段階に伸展し、βバレル膜孔が形成するために必須な因子の探索として1)a.bの2項目、2)としてダイマー、オリゴマー形成とprestemのリリースに関わる因子の探索として2)a-cの3項目、3)各成分の標的細胞膜認識に関わる毒素側因子の探索として1項目の実験を設定した。 実験1)では、αヘモリジンを用い、1)a実験の要となるβバレルを形成するステムドメインのリリースに関わる因子と、伸長後に膜貫入に関する因子の効果について、別々に見ることが出来るシステムを開発した。 実験2)では、2)b実験として、Hlg2およびLukFを用い、それぞれ膜孔構造からステムリリースに関わると考えられる残基の変異体を作成した。Hlg2について変異により溶血活性を失った2つの残基がそれぞれステムリリースに関与すると推定された。一方LukFでは予想される残基の変異は溶血活性に影響しなかった。以上(1,2)の結果より、βーバレル型膜孔の形成に関与する残基の候補が複数見いだされた。 実験3)では、Hlg2を含む複数の二成分性β-PFTのS型成分とHlg/Lukの赤血球認識S型成分であるHlg2成分の推定細胞認識部位を置換し、赤血球結合に対する影響を解析した。ヒト赤血球を認識しうる2種類のS型成分では、赤血球認識に関与するループの位置は同一であったが、認識に関わるアミノ酸の配列はそれぞれ固有であった。その成果の一部は、第90回日本細菌学会総会(平成29年3月、仙台)で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究科の移転による実験に支障を来す期間が予想以上に長く(約二か月)なったため、下記のように若干の遅れが見られる。しかし、本研究の計画の遂行にあたっての大きな障害は生じていないため、29年度中に一定の成果を上げることができると確信する。 実験1)では a, bの二段階のうち、αヘモリジンでβバレル伸展と膜貫通に関わる因子の働きを見分けるシステイン二重変異体を確立できた。これを活用し、実験1aの実験を早急に進める必要がある。 実験2では2)bを中心に進め、Hlg2で2つの残基を見いだしたことで、βバレルステムのリリースのスイッチとなる残基が明らかになった一方、LukFではの残基の変異は溶血活性に影響しなかったことは予想外であったが、逆にこれが2つの成分が連携してβバレルを形成するために必要な性質である可能性が考えられる。概ね予定通りに進んでいるが、引き続き引っ越しで手をつけられなかった、実験2)a, cに着手する必要がある。 実験3)では、複数のS型成分の赤血球細胞膜認識に関わる最も重要なループの位置が共通であることを見いだしたが、その部位のアミノ酸配列は共通ではなく、それぞれの毒素に固有の配列が必要であった。これはそれぞれの成分が認識する標的細胞レセプターが異なる可能性、複数のループが共同して認識している可能性などを示唆するものであり、更なる解析を進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
実験1)aでは得られたαヘモリジンのシステイン二重変異体を活用し、βバレルの膜貫入に必須と考えられる残基を種々のアミノ酸に変換した変異体を作成して赤血球崩壊、および膜孔形成への影響を解析することをαヘモリジンで先行して行う。その結果を受け、実験1)で予定していたγヘモリジン各成分での解析を予定通り進める。 実験2)bで得られた活性を失った2つHlg2変異体の解析を進めるとともに、実験1)aにおけるのαヘモリジンのステム貫入とステムリリースの影響を分地した解析を参考にしながら、実験2a)のprestam安定性の解析を進める。 一方、2)bで活性に影響を示さなかったLukF変異体については、実験2)3のダイマー・リング状構造の形成に関与する残基の解析と合わせ、この変異が溶血活性に影響しなかった理由を解明する。 また、実験3)のS型成分の標的細胞膜認識に関わる毒素側因子の探索では、複数のS型成分の赤血球結合において最も重要なループを毒素間で入れ替えた変異体をもとに、標的細胞と接触するその他のループ部位の細胞認識に対する協同的機能を解析する。さらにヒトリンパ球型レセプターを組み込んだマウス細胞を使用できるめどがついたので、赤血球認識との関連を調査し、S型成分の細胞認識に関わるアミノ酸残基の同定する。 黄色ブドウ球菌で知られている複数の二成分性毒素はお互いのS型-F型成分を入れ替えても活性を示すが、遺伝子が遺伝子的にオペロンを形成している「本来の二成分」のペアでで最も高くなる。すなわち、細胞特異的な活性には、S-F成分間の相性も影響する。そこで、実験1)におけるテム形成に関与する変異、実験2)における二成分間のリング形成に関わる変異の情報をもとに構築した各種変異体の組み合わせによる赤血球崩壊活性を指標にして、実験3)の成果と合わせて、「本来の二成分」が最も強い毒素活性を示す機構を解明する。
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Causes of Carryover |
平成28年度秋から29年度春にかけ、研究科の移転があり、約二ヶ月実験がストップした。新規備品購入は移転後の機器は位置をにらみながら行うことになった。今回今回の移転では移転前より実験室スペースが狭くなること、複数の実験室からの移転計画時とは異なった備品を同一室に受け入れなければならないという事態が起こった。ブドウ球菌の遺伝子組み換え実験を行うP2実験室に設置する小型遠心機を申請していたが、引っ越し後旧型遠心機を一時的に配置することができた。そのため、28年度には必要なローターのみを購入した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
計画では超音波破砕機の更新を計画していた。一方で、移転に際して老朽化した機器の整理と再配置を行った結果、分光光度計およびゲル撮影装置など、いくつかの研究に必須な機器が他の研究室との共同利用となった。これらのうち、重要度の高いものから順次更新、および必須な機器を新規入手するとともに、必要な消耗品を購入する。また、29年度は最低3報の論文投稿を予定しておりそのための英文校閲と投稿料を支出する。さらにおよび発表を予定している福岡での細菌学会への旅費を支出予定である。
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