2016 Fiscal Year Research-status Report
植物寄生性線虫の感染過程における宿主根認識機構の解明
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16K14913
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
近藤 竜彦 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (30362289)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 植物寄生性線虫 / 誘引物質 / 生物間相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
土壌から定法にしたがって単離した細菌から、線虫誘引活性を示す細菌をスクリーニングし、合計36株の線虫誘引細菌株を得た。各株からDNAを抽出し、16S rDNA配列を解析して細菌の同定を行い、線虫誘引細菌のリストを作成した。中でも多数の単離株が得られた属の中から誘引活性の再現性をもとに選抜したC1株を用いて、この細菌の増殖を刺激する物質(REMS factor)の精製を進めている。またC1株が単独液体培養の条件ではなく、実際の土壌中で根浸出液に応答して増殖するかどうかを調べるために、C1株の16S rDNAを特異的に増殖するプライマーを設計し、蒸留水または根浸出液を添加して24時間インキュベートした土壌からDNAを抽出し、半定量PCRによってC1株の存在比を調べた結果、C1株は土壌中においても根浸出液の刺激によってその存在比を増加させることが明らかになった。この結果は、C1株(およびその近縁細菌)が根圏において根由来のREMS factorによって増殖し、根圏への線虫誘引に重要な役割を果たしていることを強く示唆している。さらに、根浸出液が土壌菌叢に与える影響を調べるために、根浸出液を添加した土壌からDNAを抽出し、メタゲノム解析を開始した。現在、シーケンスを終了し、結果の解析を行っている。 また、このC1株が生産する線虫誘引活性物質(Attractant)のキャラクタリゼーションを行った。複数の培養条件でC1株を培養して得られた培養上清、菌体抽出物、培養時に生産される揮発性物質等には有意な線虫誘引活性を観察することができなかったことから、一般的な抽出法、精製法によってAttractantを単離同定することは困難であることが予想された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(a) REMS factorの同定と構造解析 土壌細菌からの線虫誘引細菌のスクリーニングによって、36株の線虫誘引活性を示す細菌の単離株を得ることができた。単離した細菌は6属に分類されたが、その中でもある属に属する細菌が過半数を占めていた。この細菌群は、これまでに生物検定に用いていた細菌(アルファルファ水耕液から単離)とは分類学的にかなり異なっており、土壌中から実際に高頻度で単離される線虫誘引細菌であることを考えると、こちらの細菌に対するREMS factorを明らかにする方が応用上も重要であると考えられた。そこで、生物検定に用いる細菌を前段で述べたC1株へと変更し、REMS factorの精製に再挑戦している。幸運なことに、C1株におけるREMS factorの性質は、これまで精製を試みていた物質と性質がかなり類似しており、これまで確立した精製法等をある程度適用できることが明らかになったため、順調に精製を進めることができている。 (b) 線虫誘引機構の解明 土壌より単離した細菌から、線虫誘引活性を示す細菌を36株単離し、16S rDNA配列から細菌の同定を行った。また、次年度に予定したメタゲノム解析を前倒しして実施した。土壌に蒸留水または根浸出液を添加して0~24時間インキュベートした後、土壌からDNAを抽出し、NGSを用いてメタゲノム解析を行った。現在、得られたデータを解析中であり、実際に土壌中で根浸出液(に含まれるREMS factor)に応答して存在比が増加する細菌を網羅的に明らかにする。その結果を上記の線虫誘引細菌のリストと比較することで、根からの刺激により根圏で増殖する細菌が線虫を誘引するというモデルを検証することができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
(a) REMS factorの単離同定 現在進めているC1株に対するREMS factorの精製を行い、単離同定する。REMS活性の評価法として、C1株の液体培養に試料を添加して濁度上昇を観察するin vitroの手法に加えて、土壌に試料を処理し、抽出した細菌DNAを鋳型とした半定量PCRによって土壌中におけるC1株の増殖をモニターする手法を用いる。これによって、実際に多くの細菌が拮抗し合う土壌中で特定の細菌の増殖を刺激する物質を同定することができると考えている。 (b) 線虫誘引機構の解明 根浸出液処理した土壌における菌叢解析を進める。根浸出液処理後、速やかに存在比率が増加する細菌(OTU)の情報を抽出し、線虫誘引細菌のリストと比較することで、その中に線虫誘引細菌が含まれているかどうかについて調べる。 C1株が生産する線虫誘引活性物質については、通常の抽出、精製法が適用できないことが明らかになってきた。抽出等ができない可能性として、活性物質が非常に不安定な物質である可能性や、線虫誘引細菌が寒天玉の周囲で増殖することによって生じるpHや二酸化炭素濃度など環境因子の勾配によって誘引現象が引き起こされている可能性が考えられる。そこで、C1株由来の試料を用いて生物検定を行う実験に加え、生物検定内にpHなどの勾配を形成させて系内での線虫の行動を観察するなど、環境因子によって誘引現象が引き起こされるという可能性も考慮に入れた実験を行っていくことによって、細菌による線虫誘引機構を明らかにする。
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Research Products
(1 results)