2018 Fiscal Year Research-status Report
ダイオードツリーによる樹冠の太陽光受光量の再評価と応用への基盤確立
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16K14933
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
隅田 明洋 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (50293551)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 樹冠 / 林冠 / 光環境 / 森林 / ダイオードツリー / 太陽光発電 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度北大低温科学研究所の技術部職員により製作されたダイオードツリー(小型フォトダイオード(小型ソーラーパネル)を葉に模して三次元的に空間中に配置した人工樹冠)の第1号器を用い、ツリーの光吸収様式に関する実験を行った。直径20cmのツリーの1つの層に小型フォトダイオードを640個配置した。ツリーはこの層を鉛直方向に等間隔に複数配置したものである。このツリーを、内面を鏡面仕上げにした1mの高さの円筒に入れ、円筒上部からLED光源で下向きに光を照射し、生じた電流量によって各層が受ける光強度を記録した。ツリーの上側から任意の高さまで積算したフォトダイオードの受光面の積算面積とそれらによる総発電量間にBeer-Lambert則と呼ばれる関係が成立することが前年度の予備的実験で確認されたが、本年度のさらなる実験により、円筒内の層の位置や光源の光強度に関係なく同じ結果が得られることがわかった。この結果は、現実の植物群落で観察される葉群の光吸収様式をツリーが適切かつ安定的に再現したことを示す。その一方、製作したシステムでは、層間の鉛直方向の間隔の違いの光減衰に対する影響を十分に調べることができないことがわかった。すなわち、層間の間隔が狭くなると本影・半影と呼ばれる効果によって光吸収量が変化すると予測していたが、その効果は表れなかった。さらに、ツリーを入れる円筒内部を黒く塗装したシステムで新たに実験を行ったが結果は同様であった。その理由としてツリーシステム全体からの表面反射が過度の散乱光条件を作り出したことなどが考えられた。以上の結果は、実際の植物群落において、葉群自体による光の散乱がBeer-Lambert則の成立において重要であることを示唆している。これらの結果を踏まえ、ダイオードツリー自体による光散乱の効果を調べることができるような新たなダイオードツリーの製作に取りかかることとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究進捗が遅れている理由は以下のとおりである。 研究実績の概要で述べたとおり、ダイオードツリー第1号器を用いて実験を行った結果、製作したシステムでは、目的とする層間の鉛直方向の距離の効果(本影・半影効果)を十分に再現できないことがわかった。このため、第1号器のシステムに修正を施した新たなダイオードツリーを製作することとしたが、まだ製作の途中段階である。 一方、層間の鉛直方向の距離の効果が現システムで十分に再現できなかった実験結果は、葉群全体による光の吸収における葉群自体からの光の散乱の重要性を示唆しており、この点は当初予想していなかった。このことから、研究開始時に予想していなかった重要な成果を得る可能性を追求するためのシステムを新たに製作し、実験を行うこととした。 しかしながら、ダイオードツリーを製作する技術部スタッフは他の業務にも携わっているため製作に時間を要している。さらに、2019年9月6日未明に発生した北海道胆振東部地震によりダイオードツリーシステムが倒れ、ツリーの一部の層と光源が破損した。このため、壊れた層を修理するとともに、光源を新たに製作することとなり、新しい光源の性質を調べる実験を最初から行うこととなったことも遅れが生じた一因である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要および現在までの進捗状況の項で述べたとおり、今後の方策として以下の二つを行う。 一つ目は、層間の鉛直方向の距離がツリー全体の光吸収量に及ぼす効果についてである。ダイオードツリー第1号器においては、光吸収量(発電量)を各層ごとに記録できるよう設計したため、結果的に層間の鉛直方向の距離がその効果の大きさを調べることができるほど十分狭くなかったことが実験により判明した。このため、層ごとの測定値を得るかわりに層間の距離を十分狭くしてツリー全体の発電量だけを求めるシステムを新たに製作し、実験を行う予定である。 二つ目は、葉群全体による光吸収量に対する葉群そのものによる光の散乱の重要性について追及するため、散乱が極力起こらないように表面を加工したダイオードツリーシステム、および、光源からの直達光だけでなく散乱光による光吸収も評価できるダイオードツリーシステムを新たに製作する。 これらのシステムはすでに同時に製作に取りかかっており、早い時期に予備実験を経て本実験を遂行し、国内の学会等で結果の発表を行いたい。
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Causes of Carryover |
研究実績の概要で述べたとおり、2019年9月の地震による製作済みのダイオードツリーシステムの修理に時間を要したこと、ダイオードツリーを製作する技術部スタッフは他の業務にも携わっているため製作に時間を要していること、により実験に多少の遅れが生じ、予算の執行が遅れた。さらに、今後の研究の推進方策で説明したとおり、ダイオードツリー第1号器のシステムに修正を施した新たなダイオードツリーを製作することとしたこと、ダイオードツリー自体からの光の散乱の効果を調べるために当初想定していなかった新たなシステム製作し実験を行うこととしたこと、により、本年度使用すべき予算を次年度に持ち越すこととした。 次年度は製作に必要な部品等の購入を速やかに行い、これらの製作を急ぐとともに、学会発表のための出張旅費、および、論文作成等に使用する予定である。
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