2016 Fiscal Year Research-status Report
アルティソルとオキシソルにおける森林再生過程と土壌生態学的レジリアンスの比較研究
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16K14941
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
舟川 晋也 京都大学, 地球環境学堂, 教授 (20244577)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邉 哲弘 京都大学, 地球環境学堂, 助教 (60456902)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 生態・生物多様性 / 熱帯林 / 森林再生 / 生態学的レジリアンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,湿潤アジアおよび中部アフリカにおける熱帯林生態系再生過程を,植物―微生物系における共生関係の回復を契機とした物質動態系の再確立として捉えることによって,生態学的レジリアンスに含まれる個々のプロセスをそれぞれ明確に認識する方法論を確立することを目的とする。2016年度は,特にカメルーン,インドネシア,タイの土壌生態系における窒素動態に関わる検討を行い,以下の点を明らかにした。 1)マメ科樹種が優占しリターによる窒素投入量が多いカメルーンの熱帯林3サイト(Oxisols2点, Ultisols1点)と,フタバガキ科樹種が優占し窒素投入量が少ないインドネシアの熱帯林3サイト(Ultisols)において,O層と鉱質土層より試料を採取し,全窒素濃度とpH,総硝化速度を測定した。その結果,鉱質土層における全窒素濃度と総硝化速度はカメルーンの方がインドネシアより高かったことから,同様に酸性である鉱質土層の総硝化速度は,全窒素濃度によって規定されたと考えられた。一方,O層における全窒素濃度,pH,総硝化速度はいずれもカメルーンの方がインドネシアよりも高かった。このように土壌の違いにもかかわらず,カメルーン森林においてマメ科樹種が卓越し,リターによる窒素投入量が大きかったことが,高い硝酸化成を含む活発な窒素循環を促している条件の一つであることが明らかとなった。 2)タイ国北部の焼畑農耕地および年数の異なる休閑地より表層土壌を採取し,有機態窒素の総無機化速度,総硝化速度を,それぞれ純無機化速度,純硝化速度と合わせて測定し,おのおのの規定要因を検討した。その結果,焼畑農耕/休閑下で比較的安定な有機態窒素プールを反映して,総無機化速度はそれほど増減しなかった。一方総硝化速度は,CN比の低下,塩基飽和度の増加に応答して増大した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,湿潤アジアUltisolsおよび中部アフリカOxisolsにおける森林再生過程について,有機物(特にリグニン)分解過程,窒素・リン動態およびこれを支配する微生物学的プロセス,植物・微生物間相利共生関係の確立過程に着目して,比較検討を行うものである。研究1年目は、これらのプロセスのうち特に窒素動態に関する微生物プロセスに関し、特に15N安定同位体を用いた実験によって総無機化速度、総硝化速度についていくつかの重要な知見を得ることができた。このような理由から、進捗状況評価を「(2)おおむね順調に進展している」としたものである。
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Strategy for Future Research Activity |
前期の結果を受けて、研究2年目には以下の2つの方向に研究を展開したい。 1)菌根共生の評価。アフリカとアジアの熱帯林がもつリン獲得のための共生系である糸状菌群集構造は、アフリカではAM菌(アーバスキュラー菌根菌)が、アジアではECM菌(外生菌根菌)が、それぞれ卓越し、群集構造は大きく異なることが知られている。このあたりの詳細を、次世代シークエンサーを用いて、糸状菌および細菌の群集構造を解析することにより明らかにしたい。 2)光合成産物の窒素およびリン獲得への戦略的分配という観点から、森林-土壌生態系中の物質動態を再精査したい。手法的には、窒素資源に関しては生態系プロセスの様々な局面におけるCN比を追跡することによって、リン獲得については有機酸の動向を追うことによって検討する。最終的に、これら2方向への投資(光合成産物分配)が両立するのかしないのか、あるいはこれらの戦略が土壌基盤と関係してくるのかに関して、知見を深めたい。
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Causes of Carryover |
当初想定した予算使用計画に対し,現地調査を縮小し輸入試料による室内実験中心の構成に変更したことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年度には,2016年度の研究結果より必要性が明らかとなった現地調査に使用する旅費を増額するとともに,根圏微生物群集構造を明らかにするための次世代シークエンサー分析費用,安定同位体購入費用などを増額し,使用する予定である。
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Research Products
(12 results)