2017 Fiscal Year Research-status Report
樹木細胞壁の木化に及ぼす非セルロース性多糖類の影響
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16K14956
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉永 新 京都大学, 農学研究科, 准教授 (60273489)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上高原 浩 京都大学, 農学研究科, 准教授 (10293911)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 引張あて材 / G層 / 師部繊維 / ペルオキシダーゼ / 木化 / リグニン / ヘミセルロース / キシラン |
Outline of Annual Research Achievements |
H29年度は、傾斜させて引張あて材を形成させたカジノキを用いて、混合法により人為的木化を試みた。カジノキの師部、形成中の木部から厚さ50ミクロンの横断面切片を作製し、リン酸緩衝液で繰り返し洗浄して可溶性のペルオキシダーゼを除去した。キシロオリゴ糖(市販)の70%エタノール溶液で切片を処理し、洗浄後、切片にコニフェリルアルコールと過酸化水素を加え、師部繊維のG層と引張あて材のG層の人為的木化を試みた。過酸化水素や、キシロオリゴ糖を含まない場合をコントロールとした。反応後の切片をエタノールで繰り返し洗浄して、低分子の重合物を除去した後、一部の切片をエポキシ樹脂に包埋した。一部の切片はアクリフラビンで染色後、共焦点レーザー顕微鏡を用いてリグニンに由来する蛍光を観察した。また、包埋試料から厚さ約0.1ミクロンの横断面超薄切片を作製し、0.1%クエン酸ナトリウムを含む1%過マンガン酸カリウム水溶液でリグニンを染色し、透過型電子顕微鏡で観察した。その結果、引張あて材のG層と、師部繊維のG層でリグニンの存在を示す蛍光が増加し、キシロオリゴ糖を加えた場合に最も強い蛍光が観察された。このことは、キシロオリゴ糖が存在することにより、G層の木化に何らかの影響を及ぼしている可能性を示唆している。引張あて材のG層よりも、師部繊維のG層で強い蛍光が観察された。透過型電子顕微鏡で師部繊維の細胞壁を観察すると、コニフェリルアルコールと過酸化水素を加えた場合と、キシロオリゴ糖吸着後にこれらを加えた場合に師部繊維のG層全体の染色性が明らかに増加していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、ペルオキシダーゼ活性を持つ引張あて材のG層と師部繊維のG層に非セルロース性多糖類を加えて吸着させた後、モノリグノールと過酸化水素を加えて人為的木化を試み、細胞壁の木化及びリグニンの化学構造に及ぼす非セルロース性多糖類の影響を明らかにすることを目的としている。 H28年度には、まずG層の人為的木化に先立ち、ペルオキシダーゼ活性が師部繊維のG層にも存在すること、2年間人為的に傾斜したカジノキでは、傾斜した年に形成された引張あて材のG層が翌年にもその活性を保持していること、その活性は試料を凍結保存しても保持されることをペルオキシダーゼの活性染色によって明らかにした。また、キシロオリゴ糖溶液を添加すると、特に師部繊維のG層にキシロオリゴ糖が吸着することをモノクローナル抗体による免疫蛍光標識法を用いて明らかにした。また、その吸着には適切なキシロオリゴ糖溶液の濃度が存在することを明らかにした。 H29年度には、カジノキ引張あて材の横断面切片を用いて、キシロオリゴ糖を吸着させた後にコニフェリルアルコールと過酸化水素を加えることにより、引張あて材のG層と師部繊維のG層の人為的木化を試みた。その結果、G層、特に師部繊維のG層に脱水素重合物が形成され、しかもその重合物はエタノール脱水によってもG層中に保持されることが示された。さらにキシロオリゴ糖の吸着によって、G層に形成される脱水素重合物が増加することを見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
一般に、モノリグノールと過酸化水素からペルオキシダーゼを用いて脱水素重合物を形成させる場合、それらを混合する場合(混合法)と、少量ずつ滴下して重合させる場合(滴下法)で、リグニンの化学構造が異なることがよく知られている。混合法では縮合型構造と呼ばれる炭素-炭素結合の割合が増加し、滴下法では非縮合型構造と呼ばれるアリールエーテル結合が増加することが知られている。H29年度には混合法を用いて引張あて材のG層と師部繊維のG層の人為的木化を試みた。H30年度は最適な濃度の溶液を用いて切片にキシロオリゴ糖を吸着させた後、シリンジポンプ(H28年度に購入済み)を用いて、少量ずつモノリグノールと過酸化水素をG層に添加して、その人為的木化を試みる。所定の時間反応させた後、切片におけるリグニン沈着の有無、程度を紫外線顕微鏡、蛍光顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、透過型電子顕微鏡などの様々な顕微鏡手法を用いて明らかにする。さらに様々なリグニンの結合様式に特異的なモノクローナル抗体を用いて免疫標識し、キシロオリゴ糖の添加と、重合の方法(混合法と滴下法)が、形成されるリグニンの化学構造にどのような影響を及ぼすかを明らかにする。樹木細胞壁に存在するキシランはアセチル化されていることが知られている。そこで、条件を変えてアセチル化したキシロオリゴ糖を用いて、これまでと同様の実験を行い、G層の木化及び形成されるリグニンの化学構造に及ぼすキシランのアセチル化度の影響を明らかにする。
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Causes of Carryover |
理由 当初の計画では、キシロオリゴ糖のアセチル化を予定していたが、昨年度には本研究の重要なポイントである切片へのキシロオリゴ糖の吸着が人為的木化に及ぼす影響は明らかにしたものの、アセチル化キシロオリゴ糖の効果を調べるには至らなかったため。
使用計画 翌年分の助成金と合わせて、キシロオリゴ糖またはキシランのアセチル化用の試薬、NMR分析およびMALDI-TOF MS用の試薬、器具などに使用する。
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