2016 Fiscal Year Research-status Report
日周鉛直移動する赤潮藻カレニアへの底生性珪藻類による初期発生過程阻害効果の検討
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16K14960
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
今井 一郎 北海道大学, 水産科学研究院, 特任教授 (80271013)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 赤潮 / 底性珪藻 / 羽状目珪藻 / 中心目珪藻 / 珪藻休眠期細胞 / Karenia mikimotoi / 日周鉛直移動 / 増殖阻害 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年6月に周防灘の5地点及び佐伯湾の11地点で採泥した。直接検鏡法による観察と計数とMPN法による発芽・復活可能な休眠期細胞密度を各分類群で求めた。 直接検鏡法は採泥後5日以内に行った。底泥中の珪藻類休眠期細胞密度は,周防灘で1.0 x 104 - 9.9 x 104 cells /g 湿泥,佐伯湾では3.6 x 104 - 2.4 x 105 cells /g湿泥の範囲であった。採泥後5日以内のMPN法による計数の結果,周防灘で8.0 x 102 - 2.1 x 105 MPN /g湿泥,佐伯湾では1.1 x 104 - 1.9 x 105 MPN /g湿泥となった。水深の浅い地点で中心目珪藻に比べて羽状目珪藻の割合が高かった。また6か月冷暗所保存後のMPN法による計数の結果,休眠期細胞数はやや減少した。分類群では中心目珪藻類の割合が高く,特にChaetoceros属が卓越した。羽状目ではNavicula属の割合が増加した。以上から,水深の浅い場所では海底に羽状目珪藻が多数生息し,採泥後に暗黒条件下で生理的に耐性を持つ休眠期細胞を形成するが,その寿命はNavicula属で比較的長くNitzschia属等で短いと考えられた。 底生珪藻と赤潮渦鞭毛藻Karenia mikimotoi(カレニア)との関係について,底生珪藻密度の多寡とカレニアの日周鉛直移動や増減をシリンダーによる培養実験で調べた。底生珪藻が高密度の時,カレニアは正常な日周鉛直移動が阻害され細胞密度も減少した。また底生珪藻とカレニア培養株の共培養実験の結果, 底生珪藻Nitzschia sp.によってカレニア細胞密度が減少した。七重浜の海底堆積物を用いた培養実験の結果,カレニアを補食する繊毛虫Pleuronema sp.を発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
周防灘と佐伯湾を対象として,大分県水産研究部の研究協力者の協力を得て現場調査を実施する予定であったが,予定通り海底泥試料を得る事ができ,それらの海底泥試料について,海底泥中の底生珪藻類(羽状目珪藻類)の数を,落射蛍光顕微鏡を用いて直接計数する事ができた。同時に,中心目珪藻類の休眠期細胞の密度も計数し,底生珪藻類の密度の相対的な重要性を評価できた。このようなデータは世界的にも稀で(知る限り,無い)あり,画期的なデータである。また終点希釈法を用いての計数により,羽状目珪藻類と中心目珪藻類の休眠期細胞に関する情報を得た。 海底泥試料を用いた室内実験を行った。実験用のシリンダーの底に泥を置き,そこへ培養したカレニアを接種し,カレニアの細胞数の鉛直分布の時間的変化を調べた。珪藻類の増殖阻害剤であるGeO2 を添加し,珪藻類の活性を人為的に低下させた実験区を設け,弱った珪藻のカレニアへの影響を他の実験区と比較した。その結果,弱ってない底生珪藻が多い場合,カレニアは大きく阻害されたことから,仮説を支持する結果が得られた。 無菌培養の底生珪藻の培養株を得る事が出来,カレニアとの二者培養実験を行い,明らかな阻害作用を示すという結果が得られた。また,新鮮な海底堆積物を用いてカレニアとの共培養実験を行ったところ,予想外の結果としてカレニアを捕食するPleuronema属の繊毛虫を発見し,分離培養出来た。予想外の進展と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
広島県福山市の田尻港は水深が浅く,通常は底生珪藻が卓越するが,夏に底層が無酸素化あるいは貧酸素化し,それに附随して鞭毛藻赤潮が港内において発生する事を,昨年度の調査で発見した。そこで現場調査では,田尻港を対象として環境要因と,鞭毛藻,浮遊性珪藻,底生珪藻の動態の関係を調査し,特に貧酸素化が底生珪藻に及ぼす影響を評価し,ひいては鞭毛藻赤潮の発生との関係を明確にする事を試みる。 室内実験については,前年度に現場から分離培養し,確立した底生珪藻類の無菌培養株を用い,無菌培養のカレニアとの二者培養試験に供して,カレニアに対する増殖阻害の有無を検討する。また,予想外に得られた繊毛虫について再度その存在を現場で確認し,繊毛虫による捕食が稀な現象なのか普通なのか検証する。繊毛虫の株と,カレニアを含む赤潮プランクトンとの共培養試験を実施する。 得られた研究結果について解析を行い,研究成果のとりまとめを行う。現場調査と実験結果のデータを解析し,カレニアに対して底生珪藻類が与える影響を評価する。中でもカレニアに対して阻害的に働くものについて注目し,その活性を評価する。大分県水産研究部で実施している赤潮モニタリングの調査結果について,本研究で得られた結果と照合し,カレニア赤潮の初期発生域の環境について考察を行う。光環境や酸素環境のデータと底生珪藻類のデータを照合し,カレニア赤潮の初期発生の環境について考察する。最終的には,カレニア赤潮の初期発生の予知指標を抽出し,発生域と発生の時期について底生珪藻類を考慮に入れた指標の提案を試みる。
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Causes of Carryover |
培養実験用の特製試験管(ターナー蛍光光度計での増殖モニターが可能)の購入を希望したが,購入の最小単位でも残額が不足したので,次年度に持ち越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
持ち越した残額を有効活用して,培養実験に使用する特製の試験管を購入し,培養実験を行う。
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Research Products
(2 results)