2016 Fiscal Year Research-status Report
魚類糞便を用いた健康診断法の開発:魚からのストレスメッセージを非侵襲的に読み解く
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16K14964
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Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
羽野 健志 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, 主任研究員 (30621057)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 克敏 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, 主任研究員 (80450782)
伊藤 真奈 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, 任期付研究員 (60735900)
内田 基晴 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, 主幹研究員 (70371961)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 糞便 / 環境ストレス / 代謝物 / 腸内細菌 / 非侵襲 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、魚類をモデル生物として、糞便中の腸内細菌叢及び代謝物の変化を指標とした、実験生物に全く痛みを与えずに環境ストレス影響を検出・評価する方法を開発することを目的として行った。28年度は、有害化学物質(石油毒性成分:フェナントレン(Phe))をストレス源とした曝露試験を2週間行い、1回/週の頻度で糞便、血液を採取しその変化から本手法の妥当性を検証した。 (1)血清中のストレスマーカー(SOD)濃度を測定した結果、曝露区で有意に増加しており、供試魚がPheのストレスを受けていると判断した。(2)①糞便を用いた代謝物総体解析の結果、1週目に生理活性アミンであるプトレシンが曝露区で有意に減少していた。この結果は2週目に行った②栄養資化能評価によって腸内細菌のプトレシン資化能が上昇した結果と合致する。③糞便中腸内細菌叢を次世代シーケンサーによって解析した結果、γ-Proteobacteriaが優占している点は共通であったが、その内訳をみると通生嫌気性菌であるVibrionaceaeの割合が減少し、好気性菌であるPseudoalteromonadaceaeの割合が増加していた。このことから、通常嫌気環境である腸内環境が、Pheの暴露により好気的な環境に変化している可能性が示唆された。以上の結果、Pheのストレスに対峙する以下の腸内環境の変化が推察される。すなわち、Pheに対しまず内在性の腸内細菌(か宿主?)が腸内環境を好気的に変化させて適応する(1週目)、しかし、Pheによるストレスが生物体の許容範囲を超えると腸内細菌の種組成や腸内細菌の資化能を変化させ適応しようとする(2週目)、というものである。さらに、曝露終了後清水に戻すと資化能や代謝物に対照区との差は殆どなくなることも確認している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
有害化学物質を環境ストレス源としたケーススタディとして、供試魚の糞便の変化を①代謝物、②腸内細菌叢の資化能、③腸内細菌叢の種組成から考察した。その結果、各指標に顕著な変化がみられ、腸内環境の変化が詳らかになるとともに、またそれらの一部は各指標を関連付けることで合理的に説明が可能な変化もみられた。以上より、本研究の達成目標である「実験生物に全く痛みを与えずに環境ストレス影響を検出・評価する方法を開発」に向けた端緒となる成果をあげることができたと考えられる。一方、当初計画に盛り込んでいた糞便中トランスクリプトーム解析は、外注先での技術的な壁(cDNAライブラリの調整不良)により実施困難(失敗)であった。また、当初の想定以上に新鮮な糞便の確保が難航したため、糞便中のトランスクリプトーム解析は断念することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、ストレス負荷試験として過密養殖試験を行う。法律で定められた許容飼育密度(10 kg/m3)の2倍程度の環境を室内水槽(H29)で再現し、過密養殖によるストレスを糞便中の代謝物や腸内細菌叢の変化から検出することを目指す。さらに、平成30年度には現場での具体的な適用を目指し、屋外で過密養殖環境を再現し、糞便以外のマトリックスが多く含まれる現場環境で、室内実験データの頑強性を検証することとしている。
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Causes of Carryover |
当初計画に盛り込んでいた糞便中トランスクリプトーム解析について、糞便サンプルを採取し外注先に送付したが、当初の想定を上回る技術的な壁(cDNAライブラリの調整不良等)により実施困難(失敗)であるとの回答を得た。よって、当該解析に要する諸費用が大幅に減額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
糞便中の腸内細菌叢の解析に要する検体数を当初計画より増やすなど、実験の頑強性の担保のために使用することとしている。
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