2016 Fiscal Year Research-status Report
酸素安定同位体比を用いたクロマグロの産卵水温の推定
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16K14968
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木村 伸吾 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (90202043)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 水産学 / 行動生態学 / 温暖化 / マグロ / 安定同位体比分析 / 産卵海域 / 環境学 / 産卵水温 |
Outline of Annual Research Achievements |
資源の減少が著しいクロマグロを対象として、容易に取得可能な耳石試料を用いた酸素安定同位体比分析に基づき、本種の産卵水温を推定することに本研究の目的がある。本年度は実施計画に基づき以下の内容を進めた。 【仔魚期の温度依存性の検証】本研究を遂行するには、仔魚期における耳石酸素安定同位体比から水温依存性の関係式を構築する必要があり、すでに研究代表者らによる研究からその関係式が得られている。そこで、既往の研究も参考にしながら、改めて換算式の分散の幅を検討し推定値の誤差を見積もったところ、線形として表現でき水温5度で酸素安定同位体比2‰の違いがあれば推定可能であることが分かった。 【市場における頭部の入手】築地市場の関係者および和歌山県の水産会社などの協力を得て、現在、ヨコワ (20kg未満)が42個体(高知)、大型クロマグロ (70kg以上)が13個体(福井、佐渡島、壱岐、那智勝浦、境、舞鶴、石川、塩釜、韓国)のサンプルを入手済みであり、その中には約400kgの大型個体のサンプルも2個体含まれている。また、間もなく200kg前後の大型個体のサンプルも25個体入手できる予定である。 【酸素安定同位体比分析用の耳石試料の作成】同位体比分析が可能なように、各個体から摘出した耳石をエポキシ樹脂に包埋し、耳石の核が適切に露出するように研磨するまでの技術的な手順の確立に努めた。 【酸素安定同位体比分析】当初、大気海洋研究所に設置されている質量分析計を中心に使用する予定であったが、仔魚期の耳石サンプルを削り出すには質量が極めて少ないため、微小領域の同位体や元素が数μm~数十μmオーダーで分析可能な二次イオン質量分析法(SIMS: Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いることとし、その技術的な手順を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は築地市場からすべてのクロマグロ頭部を入手する予定であり、一部入手してきたが、現在の築地市場を取り巻く様々な環境の変化も影響し入手が困難になった。そのため、和歌山県の水産会社の協力も得て適切な数量の試料の獲得に努めることにした。また、酸素安定同位体比をより精度が高く計測できる二次イオン質量分析法を第一優先で用いることとしたため、その技術的な確立を予定よりも前倒しして実施することにした。
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Strategy for Future Research Activity |
体重が100kg以上の耳石サンプルを多数入手するべく努める一方、二次イオン質量分析法を用いた分析手法を確立し、仔魚期における耳石の酸素安定同位体比を計測する。 得られた結果に基づき、既往の海洋環境データの解析と耳石による年齢推定を併用しながら、産卵水温および産卵海域の推定を行う。
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Causes of Carryover |
二次イオン質量分析法を第一優先で用いることにしたので、ドリルによる掘削を行わなかったため。 クロマグロの頭部から耳石を採取するに当たって、頭部を購入し耳石が取り出せるように加工するために消耗品費と人件費が必要であったが、関係者の協力により実費のみで提供を受けることができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
二次イオン質量分析法を用いる際には高精度な顕微鏡下での包埋と研磨が必要であるため、次年度使用額はそれに必要な顕微鏡アタッチメントを購入する予定である。
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