2016 Fiscal Year Research-status Report
バイオセンサによる魚類のユーストレス/ディストレスの解明:魚に良いストレスとは?
Project/Area Number |
16K14969
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
遠藤 英明 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (50242326)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | バイオセンサ / 魚類 / ストレス / ユーストレス / ディストレス / バイオセンシング / グルコース |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,研究代表者が製作した「魚類のためのストレス応答測定用バイオセンサ」を利用して,魚にとって有益なストレス(ユーストレス[Eustress]))と有害なストレス(ディストレス[Distress])の関連性を解明することを目的とする. 今年度は,本目的に適した魚類のためのグルコース測定用バイオセンサの作製を行った.申請者らが開発してきたこれまでのバイオセンサは,電極上に酵素を固定化する際1つ1つをハンドメイドにより製作していたため,個々の出力電流値に多少のばらつきが生じることがしばしばあった.そこで,酵素の固定化に自己組織化単分子膜(SAM)を利用することを考えた.まず,白金イリジウムを作用極,銀塩化銀を対極とする微小電極(φ1 x 4 mm)を作製した.次に,この電極の作用極を10 mMのMPA溶液に浸漬して表面にSAMを形成させた後,ここにグルコースオキシダーゼを固定化することにより,グルコース測定用バイオセンサを製作した.このセンサをリン酸緩衝液(pH 7.8)中に浸漬した後,グルコース標準液を滴下し,センサの出力電流値とグルコース濃度との関係を調べた.さらに,魚(ティラピア)より眼球外膜近傍の間質液(EISF)を採取し,そのグルコース濃度の測定を試みた.その結果,製作したセンサは,グルコース濃度10~3500 mg dl/1の範囲で出力電流値との間に良い相関が認められ,魚類のEISF中のグルコース濃度変化を十分に測定できるダイナミックレンジを有していることがわかった.次に,本センサを実際のEISF中のグルコース測定に適用したところ,従来法(比色定量法)によって得られた値との間に良い相関を示し,本研究の目的に適したグルコース測定用バイオセンサを構築することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,申請者らが開発した魚類のためのストレス応答測定用バイオセンサを用いることにより,「魚の真のストレス応答」を測定・解析し,魚類の行動と生理との間に新たな相関関係を見出し,「魚類にとってのユーストレス/ディストレスの解明」を探索することを目標としている.本年度は,この目的を実現するために,新規のグルコース測定用バイオセンサの設計・製作を遂行した.その結果,製作したセンサはグルコース濃度10~3500 mg dl/1の範囲で,出力電流値との間に良い相関が認められた.この値は,研究代表者らが過去に開発したバイオセンサの測定可能範囲が10~400 mg dl/1であったことから,その測定ダイナミックレンジを著しく向上させることができたといえる.このようなセンサ特性の向上は,SAMを用いてGOxを固定化することにより,電極上での酵素分子の配列がより均一化し,効率的な酵素反応が実現できたことが理由として考えられる.したがって,新規に開発した本バイオセンサを,次年度の魚類のストレス応答モニタリングに適用することにより,より正確で安定したモニタリングが実現できると予測される.以上の理由から,本研究の進捗状況は計画通り順調に進展していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度からは,魚類のストレス応答に及ぼすストレッサーの影響について検討する.例えば光のような物理的ストレッサーについては,昨年度作製したバイオセンサを試験魚(ティラピア)に装着し,そのストレス応答モニタリングを行う.まず,いくつかの飼育試験区を設け,通常の昼白色の照明が照射された水槽中で血中グルコース濃度が平常値になるまで馴致する.その後,照明の波長を変化(LEDによる一定波長)させ,一定期間照射する.この時,魚は光の波長変化により一時的にストレス応答を示すが,時間と共に馴致し,やがて元の状態に戻ると予想される.次にこれらの魚に,致死には至らないが生死を分けるような強い刺激(ここではユーストレス/ディストレスとは別の意味での強いストレス刺激,例えば空気中曝露やアンモニア性窒素化合物の投与等)を負荷し,その後のストレス応答の回復履歴を経時的に解析する.これにより,ストレス応答のレベルや回復履歴を対照区と比較し,そのレベルがコントロールより高い場合や回復が遅い場合のストレッサーはディストレスとなり,レベルが低い場合や回復が早い場合のストレッサーはユーストレスとなるという仮説を立てることで,両者の解明への糸口が得られるものと考えている.
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Causes of Carryover |
平成28年度に使用予定であった実験に関わる消耗品類,設備品の一部を,既存の現有品を用いることにより研究が遂行でき,予定よりもやや少ない支出になったため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度作製したバイオセンサの他に,新たなセンサシステムを製作する予定があるため,それに必要な電子回路部品類,酵素等の生化学試薬類,ガラス器具類等を購入する経費として使用する.また,データ整理・解析のために人件費を支出する予定がある.旅費については,ある程度の研究成果が得られたので連携研究者と研究集会を仙台で開催する予定があるため,これに当てる.
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Research Products
(1 results)