2017 Fiscal Year Research-status Report
有用ホンダワラ類の不定胚形成機構の解明―新たな海藻産業の創出をめざして-
Project/Area Number |
16K14976
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Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
吉田 吾郎 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, グループ長 (40371968)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ホンダワラ類 / 増養殖 / 種苗生産 / 室内培養 / 不定胚 / 形態形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
有用ホンダワラ類の増養殖を推進するため、季節的な限定と労力のかかる有性生殖を通じた種苗生産に代わり、室内培養下で確認された発生初期の葉(初期葉)上の不定胚形成現象を活用し、その機構・制御メカニズムを解明することにより、新たな種苗生産法を提案することを目的とする。H28年度は暖海性のホンダワラ類であるヒイラギモクを用いて、培養水温の変換(24℃→18℃)により主枝の形成等の通常の形態形成が進行すること、一方24℃で培養を継続することにより主枝の形成が阻害され、連続的な初期葉の形成が継続し、やがて藻体は極性を失って、初期葉上に高率で不定胚が形成されることを確認した。H29年度は、ホンダワラ類の他種や異なる産地のヒイラギモクを用いて上記現象を確認するとともに、ヒイラギモクを用いて不定胚形成の組織学的機構を明らかにした。 ヒジキ、ヤツマタモク、ノコギリモクについて上記の温度条件で培養したが、不定胚の形成は確認できなかった。一方、ヒイラギモクについては宮崎県産、高知県産のものもともに高率で不定胚形成が観察されたので、ヒイラギモクは同現象が誘因されやすい特性を有する種であると考えられた。培養ヒイラギモクの初期葉を細断し、24℃で培養を続けた結果、2週間以内に各断片からの不定胚の発芽がみられたが、発芽はすべて断面部、すなわち髄細胞層から発出していた。初期葉を薄くスライスし、葉断面の表層細胞、髄層細胞の経時変化を観察した結果、やはり2週間程度で透明であった髄層細胞部が着色し、細胞内部のオルガネラが明瞭に観察されるようになるとともに、細胞分裂を開始し、葉断面部から細胞塊が盛り上がっていく状態へ変化していった。なお、発芽体を葉片から剥離すると3日で基部から仮根を形成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は当所の計画通り進められ、ホンダワラ類の初期葉上の不定胚形成に表皮細胞ではなく、髄層細胞が関与している可能性が明らかとなり、同現象の組織学的機構の解明に向けて重要な成果を得ることができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
不定胚形成の過程で、初期葉の組織細胞にどのような変化が起こっているのか、より詳細な解明を進める。また、残念ながらヒジキなどの有用種では初期葉上の不定胚形成は観察できなかった。引き続き異なる培養条件を適用し、初期葉からの不定胚形成の誘導を試みるとともに、代替としてヒジキの再生産において重要である繊維状根からの再生について組織学的な観察を行い、ヒイラギモクと同様の組織細胞の変化がみられるか確認する。また、ヒイラギモクをモデル生物として、不定胚を通じた種苗生産の有効性、採算性などを試算する。
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Causes of Carryover |
最終年度である平成30年度は、実験室内(培養庫)ではなく、屋内外飼育施設において、不定胚によるホンダワラ類の種苗生産の効率性、採算性を試算する比較的規模を拡大した実験を行う予定である。そのため、屋内外施設(水槽)の維持管理にともなう人件費が必要となり、比較的小規模な実験を行ったため予想以上にかからなかった平成29年度分の経費の余剰分を、次年度に活用させていただくこととした。
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