2017 Fiscal Year Research-status Report
トランスクリプトームとプロテオームを用いたレイシガイの卵嚢の解析とその応用
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16K14988
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Research Institution | Akita Prefectural University |
Principal Investigator |
岡野 桂樹 秋田県立大学, 生物資源科学部, 教授 (40147070)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
黄 裕謙 秋田県立大学, 生物資源科学部, 特任助教 (80769547)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | レイシガイ / 卵嚢 / 卵嚢形成 / トランスクリプトーム / 忌避タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
レイシガイの卵嚢形成器官(capsule gland)で見出された、ヨーロッパバイ貝のegg capsule protein(ecps, Wasko et al., macromolecules, 2015)のホモローグには4種類あり、2種がecp1ホモローグ, 他の2種がecp2/3のホモローグであった。興味深いことに、4種ともリジンの含量が10%以上と高いことが際立った特徴であった。リジン含量が高いことからリジン同士の架橋が卵嚢形成に関与すると想定し、レイシガイの卵嚢形成器官に特異的に大量に発現する酵素を探索したところ、1種のアミン酸化酵素が卵嚢形成器官特異的、かつきわめて大量に発現していることが判明した。このアミン酸化酵素はシグナルペプチド配列を有する分泌性タンパク質であり、銅結合アミン酸化酵素ドメインを有していた。 レイシガイは卵嚢形成時期に蝟集し、その周辺にはヒトデなどの姿はあまりみえない。そこで、レイシガイの卵嚢形成器官に特異的に大量に発現する遺伝子で、レイシガイの蝟集や他の生物の忌避に関連する可能性のあるタンパク質をコードする可能性のある遺伝子を探索した。その結果、Nagai, H and Namikoshi, Mが報告したヒトデのrepellent protein(BAL43194.1, ヒトデ(Solaster dawsoni)が生産し、他のヒトデ(Asterina pectinifera)の忌避行動を引き起こすタンパク質)と高い相同性を有するタンパク質(レイシガイ卵嚢形成器官特異的ヒトデ忌避タンパク質相同タンパク質)をコードする遺伝子を見出すことができた。レイシガイ卵嚢形成器官特異的ヒトデ忌避タンパク質相同タンパク質は、N末端にシグナルペプチド配列を持ち、TECPRドメイン(Beta propeller domein)を5個有していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
レイシガイが海中でまとまって卵嚢を形成し、レイシガイがその周辺に蝟集し、かつその周辺にヒトデなどが密に存在していないことは経験的に知られていたが、レイシガイの卵嚢がどのような成分からなり、その固化がどのように起こり、また蝟集や忌避にどのような分子が関与するかに関する情報は全くなかった。 本研究による過去2年間の探索で、卵嚢の主形成成分と想定される4種類の候補タンパク質(レイシガイ卵嚢タンパク質)遺伝子を4種、およびその架橋に関与する可能性のあるアミン酸化酵素をコードする遺伝子(レイシガイ卵嚢特異的アミン酸化酵素)、およびレイシガイの蝟集または他の生物(ヒトデなど)の忌避に関与する可能性のあるタンパク質をコードする遺伝子(レイシガイ卵嚢形成器官特異的ヒトデ忌避タンパク質相同タンパク質)を見出すことができた。したがって、レイシガイの卵嚢形成器官のトランスクリプトーム解析に基づいて、関与する可能性のある分子を網羅的に探索するという意味において、現時点ではおおむね順調に進展していると思われる。 ただし、それらの遺伝子産物が本当にレイシガイの卵嚢に存在し、想定通りの機能を持つかどうかの検証はできていない。また、蝟集または忌避に関与する可能性のある遺伝子産物も、その遺伝子がレイシガイの卵嚢形成部位に特異的にかつ驚くほど大量に発現すること、ヒトデの忌避タンパク質と高い相同性を有するというだけであり、候補の域を出ない。今後これらの存在と機能について、1年間追及していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
卵嚢の主形成成分と想定される4種類のタンパク質(レイシガイ卵嚢タンパク質Tb-egg capsule proteins)については、それらのタンパク質が実際にレイシガイの卵嚢形成部位(egg capsule organ)に存在し、それが実際の卵嚢内でどのように分布するかを明らかにする必要がある。そのため、主要な2種について、特異的な抗ペプチド抗体を作製し、免疫染色を用いて、その存在の有無を明らかにする必要がある。 架橋酵素候補であるレイシガイ卵嚢特異的アミン酸化酵素についてもまず、そのタンパク質が卵嚢形成器官に存在すること、卵嚢中に存在することを証明するため、特異的な抗ペプチド抗体を用いて、卵嚢形成器官、卵嚢に存在することを明らかにしたい。それが確認できれば、クローニングし、組換えタンパク質を作製し、アミン酸化酵素活性、特にタンパク質中のリジンを酸化する活性があるかどうかを確認したい。 レイシガイ卵嚢形成器官特異的ヒトデ忌避タンパク質相同タンパク質については、クローニング後、組換えタンパク質を調製し、その組換えタンパク質がレイシガイやヒトデなどの他の生物にとって、どのような機能を持つのか、行動を引き起こすかを検討する必要がある。
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Research Products
(1 results)