2017 Fiscal Year Research-status Report
地下水と養魚池の高度利用によるバングラデシュ農村の持続的開発
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16K15005
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宇波 耕一 京都大学, 農学研究科, 准教授 (10283649)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | バングラデシュ / 養魚池 / 浅層地下水 / 稲作灌漑 / 最適戦略 / コモンズ / 確率過程 / 国際研究者協力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、バングラデシュの水稲二期作地帯において、年間を通じて定温の地下水を冷涼な農閑期に養魚池へ揚水し、稚魚を促成栽培することの可能性を検討してきた。とくに、地域レベルでの持続的な最適戦略の導出に際し、数理的最適化手法の応用を試みている。ここでいう持続的とは、地域水環境と農村経済における平衡点回帰性を意味する。 ジャマルプル市近郊に重点集落を設定し、地域全体での水動態を水理学的、水文統計学的に明らかにするため、地下水と地表水の観測と解析を行ってきた。また、稲作と漁撈の対立、共存関係に対して、対象とする農村地域社会の実態を深く理解したうえで、確率過程論やシステム制御理論の立場から数理モデルを構築し、最適な地下水揚水戦略を導出してきた。 研究開始以前から行ってきた観測と解析により、重点集落一帯は不圧帯水層をコモンズとして共有している一方、養魚池は個人所有が原則であることが明らかとなった。2016年度には実際に、養魚池にインド亜大陸における代表的な食用コイ3 種の稚魚を放流後、冬季に不圧帯水層から地下水を揚水した。最適戦略の導出に関しては、動的計画法におけるベルマン方程式の汎用的な数値解析モデルに改良を重ねた。 2017年度には、現時刻での情報を完全にフィードバックすることのできないという、現実により近い状況を想定し、これまでの動的計画法に替えてロバスト最適化理論にもとづいたアプローチを試みた。一方、蓄積されてきた水質データやインタビュー調査から、養魚池の水質や生態系が所有者の意思決定に大きく依存することが明らかになってきた。この状況も、ロバスト最適化理論の適用を正当化するものである。また、地下水を各養魚池に配水するための水路系に関しても、分水施設の構造を含めた水理学的な研究に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者と研究協力者は、2016年度と2017年度は各3回、バングラデシュへ渡航した。2016年度には観測施設の設営と地下水導入による養魚を実際に行い、2017年度はデータの収集とそれにもとづいた数理モデルの構築を主に行った。 本研究の対象地域は、重点集落と不圧帯水層を共有する範囲として定義される。3箇所の水位・水温観測井、ならびに、2箇所のパルスロガー付き転倒マス型雨量計を運用した結果、その範囲が明らかとなった。降雨と地下水の応答関係については、ARXモデルを用いて解析した。冬季に地下水を導入し、インド亜大陸における代表的な食用コイ3 種を栽培する試験養魚池では、水位、水温、溶存酸素の自動観測を継続し、その他いくつかの水質項目については渡航時に詳細な測定を行った。また、その養魚池を含む重点集落の人工貯水池12基、ならびに、その他のいくつかの水体について、水質各項目、構造諸元、利用目的、所有・管理形態、棲息する生物などを調査した。その結果、当初予定していた動的計画法におけるベルマン方程式の求解によるほか、ロバスト最適化理論を適用することよって多数の人工貯水池に対する持続的な最適管理戦略を導出できることが明らかとなった。ロバスト最適化に際しては、現地調査の結果を詳細に解析した上で、非線型代数方程式系の数値求解を行うことになる。また、試験養魚池における各水質項目の日周期変動についても解析した。一方、人工貯水池のいくつかは、冬季には灌漑用ポンプから用水路を通じて給水を受けるものであり、水田を含む用水システムの水理解析の重要性が新たに明らかとなった。そこで、有限要素法と有限体積法を併用した、すでに開発済みの1次元開水路数値解析モデルを用いて、異なった定常状態の間の遷移について調べることとした。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は最終年度となるので、2017年度に新たに見いだされた以下の課題について成果を取りまとめることに注力する。(1)養魚を含む多目的人工貯水池が多数存在するバングラデシュ農村集落を対象とした、貯水池管理運用のロバスト最適化問題を定式化し、数値計算によって最適解を計算する。(2)灌漑用ポンプと土水路による水田と人工貯水池への地下水配水システムについて、開水路水理学と微分方程式論にもとづいて、定常状態間の遷移について検討する。一方、これまでの成果として得られた、動的計画法にもとづく農村資源最適管理戦略モデルや降雨と地下水位の応答解析モデルについては、環境が異なる他地域への展開やより大規模な問題への適用をすすめている。 研究代表者と研究協力者のバングラデシュへの渡航は、9月に予定している。本研究課題のデータ収集としては最終回とするとともに、現地における意思決定支援へのフィードバック、ならびに、新たな研究計画のもとで現地調査を継続することの可否について検討する。一方、比較対象地区としている滋賀県甲賀市の今郷地区において自動観測を継続し、水質分析や水生生物調査などを実施するため、月1回程度の頻度で現地調査を行う。 得られた結果については、国際学術誌にて発表するとともに、国内外(ヨルダン、奈良市、鹿児島市)で学会発表を行う。それらには、研究協力者が行うものも含む。とくに、九州大学IMI共同利用として企画した研究集会が採択されており、主に時系列データのモデル化と解析について国際的、学際的な討議を行う予定である。また、カウンターパートであるバングラデシュ農業研究所の報告会への参加も検討中である。研究の進捗状況は、機密性の保持に留意しつつ、研究室フェイスブックなどを通じ可能な範囲で発信する。
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Causes of Carryover |
日本国内の対照地区にある溜池での水質分析に必要な試薬の購入を予定していたが、2017年10月の台風により当該溜池が崩壊し、分析作業自体が不可能となった。当該溜池は2018年3月に修復されたので、2018年度に改めて水質分析を行うこととする。
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Research Products
(15 results)