2016 Fiscal Year Research-status Report
乳組成改善を目指した新規セルロース系資材によるルーメン内酢酸生成の促進
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16K15020
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小林 泰男 北海道大学, 農学研究院, 教授 (50153648)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ルーメン / 酢酸生成 / 酢酸セルロース / 菌叢 / 乳脂肪 |
Outline of Annual Research Achievements |
酢酸セルロースは従来多くの工業用途(フィルター、スクリーン等のプラスチック素材代替物)に活用されていたが、畜産飼料としての機能性に着目し、その評価をおこなうのが当課題である。とくにルーメン発酵の過程で生成する酢酸に着目し、乳牛への応用について予備検討するものである。各種の酢酸セルロース(アセチル基の置換率により物性が異なる)の中から、もっとも酢酸生成率の高い素材を選抜し、その最適添加レベルを知る目的で初年度の研究を実施した。一連のインビトロ試験(希釈ルーメン液に供試素材を添加培養)にて、もっとも多くの酢酸を生成する酢酸セルロース素材は、水溶性酢酸セルロース(WSCA-80)であり、全基質(飼料)の5%以上の添加で効能が明らかになり、10-15%の添加でおおよそ最大効果がえられることが判明した。次に、より実際の家畜ルーメン環境に近い連続培養槽(人工ルーメン)にて、選抜素材10%添加時の効能を評価したところ、明瞭な酢酸生成が認められ、同時にルーメン菌叢は大きく変化した。とくにPrevotella属細菌の存在量が大幅に増加した。本属菌はエステラーゼを保有することが知られているため、酢酸セルロース添加時の酢酸生成増の一部は、これらPrevotella属菌の有するエステラーゼにより、アセチル基が遊離したものと推定された。閉鎖系での酢酸生成量からラフに推算すると、増加酢酸量の約2/3がアセチル基由来、その他1/3が酢酸セルロースの炭素骨格または主飼料の炭素源由来と思われる。以上より、酢酸セルロースは飼料源として有益なルーメン発酵をもたらすことが初めて明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は各種の酢酸セルロース(アセチル基の置換率により物性が異なる)の中から、もっとも酢酸生成率の高い素材を選抜し、その最適添加レベルを知ることが目的であった。これまで当初目的をほぼ完遂できているため、おおむね順調に進展していると自己評価している。経過は下記のとおりである。一連のインビトロ試験で、酢酸生成が最大となる酢酸セルロース素材を選抜したところ、水溶性酢酸セルロース(WSCA-80)が最上位となった。加えてその添加量に対する酢酸生成量(ドーズレスポンス)を検討したところ、全飼料の5%以上の添加で明確な酢酸増が見られ、10-15%の添加でおおよそ最大の酢酸増が可能なことがわかった。 人工ルーメン(連続培養槽)は上記試験管の閉鎖培養系よりも実際の家畜ルーメン環境に近いため、選抜素材10%添加時の効果をこの人工ルーメンで評価したところ、閉鎖培養でみられたような明瞭な酢酸生成の増加が認められ、それとともににルーメン菌叢の変化が確認された。とりわけ、Prevotella属細菌が人工ルーメン内で大幅に増加した。Prevotellaはエステラーゼを保有するため、酢酸生成増の一部は、これらPrevotella属菌の有するエステラーゼにより、酢酸セルロースからアセチル基が遊離したものかもしれない。これら作用機序の詳細は今後検討する必要があるが、研究は当初計画した通りに進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の目的(有用な酢酸セルロース素材の選抜とその有効添加量、ならびにおおよその作用機構の解明)はほぼ達成したので、29年度はヒツジへの給与試験を実施し、インビトロで明確であった効果が、実際の家畜ルーメン内で認められるかについて、当初の計画とおりに遂行できると考えている。ただし、選抜酢酸セルロース素材は微粉末であり、主飼料を選択採食し、添加セルロース素材を採食しない可能性もある。また、対照にもちいるのも微粉の純セルロースパウダーであり、嗜好性はかなり低いと思われる。そのため主飼料、とくに嗜好性の高い濃厚飼料(ペレット)を粉末化し、セルロース素材とよく混合した給与法で試験実施する必要を感じている。家畜の採食状況次第で柔軟に給与法を変えるが、問題なく採食されれば、人工ルーメンで認められたような菌叢の変化に基づく発酵様式の変化が生じるものと期待している。したがって初年度終えた時点で、本年度の試験計画に変更を要する点は特にない。新規飼料素材を畜産現場に近い状況で試験評価する場合、最大の課題は問題なく想定の全量を家畜に採食させることであり、この点に特に注力する。ルーメンでの酢酸生成増は乳腺での乳脂肪合成増につながる可能性が高く、将来的な乳牛への活用に資するような基盤データの取得をヒツジ給与試験で期待している。
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