2016 Fiscal Year Research-status Report
Indelマーカーの開発による家畜ウシの遺伝子流入の新たな推定法の確立と起源解明
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16K15025
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
万年 英之 神戸大学, 農学研究科, 教授 (20263395)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
下桐 猛 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 准教授 (40315403)
笹崎 晋史 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (50457115)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | Indelマーカー / 北方系牛 / インド系牛 / 系統分化 / 分岐年代推定 |
Outline of Annual Research Achievements |
一般的なDNAマーカーであるマイクロサテライトや一塩基多型(SNP)は高度な可逆性を有し、家畜化や品種造成時における別系統からの遺伝子流入を推定する際に、誤った結果をしばしば導いていた。本課題では、家畜ウシにおける不可逆性Indel多型マーカーによる遺伝子流入の新たな推定法を確立し、家畜ウシ2亜種の家畜化初期における遺伝子流入の可能性と交雑程度を推定する。加えて、開発したIndelマーカーにより日本在来牛と西洋品種の遺伝子流入程度の推定も行う。この課題を通して、最も重要な家畜の一つであるウシの家畜化起源の新たな仮説にチャレンジするとともに、これまで議論の尽きなかった日本在来牛の西洋品種からの遺伝子流入について、明確な分子遺伝学的根拠を示すことを目的とする。 現在、世界的なジーンデータベース(NCBI,DDBJなど)には、ウシの全塩基配列が登録されている。基本配列は西洋品種(ヘレフォード)であるが、現在これに加えてインド系ウシの全塩基配列、我国では古来の在来牛であると考えられている見島牛や口之島牛の全塩基配列が決定されており、これらデータの利用が可能となっている。これら各系統の全塩基配列を比較し、北方系ウシvsインド系ウシに特異的な候補Indel多型の検索が可能となり西洋品種と日本在来牛の塩基配列を比較することにより、西洋品種vs日本在来牛に特異的なIndel多型を抽出する。対象とするIndelは不可逆性を担保するために反復配列を避け、一定以上の大きさ(20bp以上)のIndelをデータベースから抽出する。 抽出したIndel多型に対し、一度のPCRにより遺伝子型が判定可能なプライマーセットをデザインし、多型マーカーの開発を行う。平成28年度は、データベース多型から得られたIndel多型100種類に対して実用性を検討し、結果として最も判定が容易と思われた8多型に対する集団解析を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まずNCBI dbSNPよりBos taurusのゲノム配列を参照し、均一な常染色体間隔になるように100箇所のIndelを選択し、この領域を含むようにプライマーを設計した。この内の各常染色体(29本)からランダムに1つずつのIndel多型を選択し、最も鮮明なバンドが確認できた8箇所のIndel多型をIndelマーカーとした。そして世界の家畜ウシ11集団に対して遺伝子型判定を行い、遺伝構造の推定や系統解析、遺伝的多様性解析を行った。 結果では、カザフスタン在来牛やモンゴル在来牛が高い値を示し、Bos indicus集団は低い値を示した。また、系統解析からもBos taurus集団とBos indicus集団で明確に分離し、SNPチップを用いたときの結果と近似した結果となった。STRUCTURE解析では、尤もらしいKはK=4のときであると評価し、Bos indicus集団、韓牛と黒毛和種、ホルスタインとアンガス、その他の集団の4つのクラスターに分類した。Bos indicus集団はほとんど独立したクラスターを形成したもののBos taurus集団の遺伝構造は混在する結果となった。その中でもカザフスタン在来牛やモンゴル在来牛は複数の構造を持ち、その他のBos taurus集団は遺伝構造の単一化が観察された。これらは地域の品種改良の程度の違いによるものであり、遺伝構造や遺伝的多様性が結果に反映されたことが考えられた。 またBos indicus3個体を用いた全ゲノムリシーケンスを実施した。 このように開発した多型マーカーは8マーカーではあるが、世界の家畜ウシ11集団に対する集団解析も終了しており、研究は順調に進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、前年度に得られたBos indicusの全ゲノムリシーケンスデータを利用して、北方系ウシvsインド系ウシに特異的な候補Indel多型の検索を実施する。得られたIndel多型を用いて、世界の家畜ウシ11集団に対する集団解析を行う。 具体的には、北方系ウシvsインド系ウシの比較から得られたIndel多型20-40種類に対する集団解析を行う。Bos taurus に属する、ブラックアンガス、ヘレフォード、日本ホルスタイン、韓牛、黒毛和種、モンゴル在来牛、カザフスタン在来牛、また、Bos indicus に属する、ラオス在来牛、カンボジア在来牛、ブータン在来牛、バングラデシュ在来牛の11集団を供試する。それぞれの集団において、各30個体以上のDNA試料に対して分析を行う。 Indel多型は不可逆性マーカーである。したがって、そのIndel多型は家畜ウシの分岐のある時期に生じたものである。北方系ウシとインド系ウシがそれぞれ分岐した後の集団内で生じたものや、北方系ウシが西洋集団やアジア集団に分岐した後に起こったものかもしれない。集団解析の結果から、それぞれのマーカーに対して多型が生じた系統や年代の推定を行う。それにより、北方系vsインド系ウシや西洋品種vs日本在来牛の分岐と遺伝子流入の推定に有効なIndel多型を選出する。 確立した研究方法を用いて、Indel多型の集団解析情報を得る。選出した遺伝子流入の推定に有効なIndel多型を用いて、インド系ウシにおける北方系ウシの遺伝子流入の可能性と流入程度について考察し、インド系ウシの家畜化起源の仮説を検証する。加えて日本在来牛のうち、西洋品種の交雑があったとされる和牛4品種における西洋品種の遺伝子流入の程度を推定し、その成立過程と遺伝的影響について検証する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は4961円のみであり、H28年度はほぼ完全に計画に沿って支出されている。残額分は旅費等で予定していた支出分より安かったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は4961円と少額であることから、経費の振れ幅がある旅費に充てる予定である。
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Research Products
(3 results)