2016 Fiscal Year Research-status Report
昆虫脚再生における幹細胞群形成の時空間的制御機構の解明
Project/Area Number |
16K15068
|
Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
石丸 善康 徳島大学, 大学院生物資源産業学研究部, 助教 (50435525)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 脚再生 / 脱分化 / コオロギ / ゲノム編集 / RNAi / JAK/STATシグナル / マクロファージ / 未分化幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫の脚再生過程において、再生芽を構成する未分化幹細胞群の「脱分化」プロセスの分子機構を明らかにすることを目的とする。本研究では、再生モデル昆虫であるコオロギを用い、脚再生の初期過程に着目し、再生芽形成におけるJAK/STATシグナル径路およびマクロファージ様細胞の関与について解析を行った。脊椎動物において脚切断後にマクロファージ様細胞が誘引され、再生芽形成に関与することが示唆されている。そこで、マクロファージ様細胞がコオロギの脚再生において関与しているか調べた。骨粗鬆症治療薬として開発されたクロドロン酸(Clodronate)は、細胞内でATP類似体としてATP代謝を阻害し、破骨細胞・ミクログリア等のマクロファージへの殺細胞効果を示す。クロドロン酸を内包したリポソームマクロキラーV300は、マクロファージの関与研究ツールとして利用されており、これをコオロギ幼虫に投与し、脚を切断すると、再生芽が形成されず再生が生じないことが明らかとなった。このことから、マクロファージ様細胞がコオロギにおいても再生に関与していることが示唆される。さらに、クロドロン酸処理したコオロギと正常なコオロギの脚切断部位からRNAを抽出し、再生芽形成に必須なSTAT遺伝子の発現をリアルタイムPCRにより解析した。その結果、正常では脚切断後12hでSTAT発現量が2倍に増加するのに対して、クロドロン酸処理によりSTAT発現は上昇しないことが明らかとなった。このことは、再生初期において、マクロファージ様細胞から未分化幹細胞におけるJAK/STATシグナル径路への関与を示唆しており、今後、マクロファージ様細胞が産生する因子の同定を行う予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昆虫の脚の再生過程において、クロドロン酸処理により再生芽が形成されないことから、マクロファージ様細胞が再生に関与することが示唆された。一方、再生芽を構成する未分化幹細胞群の維持や増殖もしくは脱分化にマクロファージ様細胞がどのように関与するかは不明なままである。先に我々は、再生芽の形成にJAK/STATシグナル経路の関与を報告しており、STATは未分化性の維持に関係することから、上皮細胞の脱分化過程での関与が示唆される。そこで、上皮性の幹細胞群の特定を行い、再生芽の時間的空間的な形成様式を可視化して解析するため、CRISPR/Casを用いたゲノム編集法を利用し、STAT遺伝子座にGFPをノックインさせた系統の樹立に着手している。さらに、クロドロン酸処理と正常な再生脚でGFP蛍光ラベルした未分化幹細胞群の挙動を比較検討できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
クロドロン酸処理したコオロギと正常なコオロギの脚切断部位からRNAを抽出し、そのcDNA配列を次世代シークエンサーで決定する(RNA-Seq解析)。その際、切断から再生芽を形成するまでの時間的な遺伝子発現の比較解析を行うことで、再生芽形成に必要と考えられる多くの遺伝子の情報を得ることができる。その中から候補遺伝子の2本鎖RNAを作製し、幼虫にインジェクション後、再生への影響を調べることにより、再生に関与する遺伝子であるかどうかを調べる(rdRNAi法)。このスクリーニング法によりマクロファージが産生する再生誘導因子の同定を目指す。さらに、rdRNAiにより同定した再生誘導因子が、予想した因子の遺伝子かどうかを調べるために、CRISPR/Cas法により遺伝子をノックアウトしてその再生への影響を調べる予定である。
|
Causes of Carryover |
研究を進めていく上で、未分化幹細胞群へのGFPノックイン系統の作製を優先し遂行しているため、当初予定していたRNA-Sequencing解析が遅れており、28年度の研究費に未使用額が生じたが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、今年度行う予定の研究計画と併せて実施する。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額と合わせた使用計画は以下の通りである。 再生芽形成に関与する因子を同定するために、1)マクロファージ様細胞が存在する場合と存在しない場合の遺伝子発現プロファイルをRNA-Sequencing解析により比較検討を行う予定である。2)本解析により同定された標的遺伝子の機能解析を、rdRNAi法およびCRISPR/Casゲノム編集技術を用いて行う予定である。3)また、未分化上皮細胞の由来を解明するため、未分化細胞マーカー遺伝子座へのGFPノックイン系統の作製を引き続き遂行予定である。
|