2017 Fiscal Year Research-status Report
イネ根におけるアミノ酸の選択的な蓄積機構の解明:アブラムシ由来の新奇エリシター
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16K15069
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
手林 慎一 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (70325405)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イネ / アブラムシ / エリシター / アミノ酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
オカボノアカアブラムシがイネの根に寄生すると、「何らかの刺激」により寄生部位の遺伝子発現が大きく変動し、結果としてアスパラギンやグルタミンなど一部のアミノ酸が高濃度に蓄積することを見出した。この特異に富栄養化したアミノ酸組成は、アブラムシが共生菌ブフネラからアミノ酸の供与を受けるために最適化されており、アブラムシが自己の増殖のために植物の栄養状態を改変していることが示され、その調節機構の解明が待ち望まれている。本研究ではこのアミノ酸生合成経路の遺伝子発現を活性化する「分子レベルの刺激(エリシター)」を解明し、食害者にとって利益をもたらすという全く新たなカテゴリーのエリシターの存在を証明することを目的とした。現在までに安定的なエリシターの活性評価方法の開発を達成したため、本年度はエリシターの精製を目指した。。 既に確立したエリシター活性評価方法で、即ち約2mmのイネ根断片にエリシターを塗布し、48時間後に褐変程度を評価する方法で、アブラムシの水懸濁液の褐変活性を評価すると、強い活性が確認された。一方で、アブラムシのメタノール抽出液は1/4程度の褐変活性しか示さず、エリシターは親水性物質であることが判明した。さらに各種Sep-Pakカラムを用いた予備試験から、活性物質は複数存在するものの、主活性物質は親水性が高く、中性物質(若しくはアニオン)であることも判明した。これの基礎情報を基に小規模の精製を行ったところ、アブラムシ水懸濁液の褐変活性は、液液分配分画にて酢酸エチルと、水画分に活性が回収され、酢酸エチル画分の活性はODSカラムで精製可能であることが明らかとなった。以上のことからエリシターの精製・単離の手法が確立できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではアブラムシがイネ根に寄生した際に生じるアミノ酸生合成経路の遺伝子発現を活性化する「分子レベルの刺激(エリシター)」の解明を目的としており、本年度はエリシターの物性調査と精製方法の開発を行った。 既に確立したエリシター活性評価方法で、即ち約2mmのイネ根断片にエリシターを塗布し、48時間後に褐変程度を評価する方法で、アブラムシの水懸濁液の褐変活性を評価すると、強い活性が確認された。一方で、アブラムシのメタノール抽出液は1/4程度の褐変活性しか示さず、エリシターは親水性物質であることが判明した。更にSep-Pak ODSカラムを用いると活性は水画分に、Sep-Pak NHカラム及びSep-Pak SiO2カラムではMeOH画分に活性が確認されたことから、エリシターが比較的高極性物質であることが確認できた。また、Sep-Pak CMを用いると活性は水画分に、Sep-Pak Qを用いると活性は両画分に回収されたことから、エリシターは中性物質或いはアニオン物質(あるいは両方)であると推定された。さらにエリシター物質は比較的熱に安定で、冷凍保存も可能である事が判明したことから小規模の精製を行った。即ち、アブラムシ水懸濁液の褐変活性は、液液分配分画にてヘキサン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、ブタノール、水画分に分画すると、酢酸エチル画分と水画分に活性が回収された。このうち、酢酸エチル画分の活性はODSカラムで精製可能であることが明らかとなった。 以上のようにエリシターの精製方法が確立したことから、本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究ではアブラムシがイネ根に寄生した際に生じるアミノ酸生合成経路の遺伝子発現を活性化する「分子レベルの刺激(エリシター)」を解明するために、開発されたエリシター活性評価方法とエリシターの精製方法を用いて、エリシターの特定を行う。具体的には以下の方法で実施する。 生物試験のために人工気象器にて均一なイネ幼苗(日本晴)を栽培し、エリシター活性の評価を行う。このシステムにてオカボノアカアブラムシの大量飼育も実施するが、より大量のアブラムシを飼育するために、ウンカ飼育ケージを用いて飼育することも予定している。これらのオカボノアカアブラムシは使用するまで-20℃で保存する。 エリシターの精製は予備試験の結果を参考に、液-液分配分画の酢酸エチル画分を、逆相系カラムクロマトグラフで40%MeOH-水画分に溶出された画分をさらにHPLCを用いて精製する。本方法によりエリシターの一つは単離可能と考えられる。一方で、液液分配分画にて水層に分画されたエリシターの具体的な精製方法は試行錯誤的に選択されるが、液液分配分画後、ODSカラム、ゲル濾過カラムまたは透析(或はその両方)にて粗精製を行った後に、HPLCを中心とした複数種のクロマトグラフィーを有機的に組み合せた分離システムを確立させ精製を遂行する予定である。 最終的には単離されたエリシターの構造を赤外吸収、紫外吸収、質量分析、核磁気共鳴等の各種スペクトルを測定することで決定する。必要に応じて合成的手法を用いて推定構造の確認や、誘導体化等による結晶化後のX線構造解析をも予定している。
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Causes of Carryover |
本研究ではアブラムシがイネ根に寄生した際に生じるアミノ酸生合成経路の遺伝子発現を活性化する「分子レベルの刺激(エリシター)」を解明するために、現在までに数百頭程度のアブラムシの懸濁液をイネ幼苗の根(傷害処理済み)に処理することでアミノ酸蓄積誘導の再現に成功している。しかし本法では傷害の程度により誘導活性が影響することや、生物試験に必要なアブラムシ量が多量であることが研究進展の妨げとなっていた。そのために本年度は安定的なエリシターの活性評価方法の開発を目指したため、予定していた分子生物学試薬の購入量が減少したため次年度使用額が生じた。 新たな確立された安定的なエリシター活性評価方法でのエリシターの単離同定を行うためには多量にアブラムシが必要となる。このため本年度はアブラムシ飼育資材を購入する予定である。また、本研究ではエリシターの活性評価方法の改善により対象現象に違いが生じている可能性がある。そこで両方のエリシターの活性評価方法によるイネ根における生理変化を確認するためメタボローム解析とトランスクリプトーム解析の経費に活用する予定である。 これらはいずれも本研究の遂行に必要な経費である。
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