2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K15114
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山口 良文 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (10447443)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 冬眠 / ゲノム改変 / 発生工学 |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類の冬眠は、低温・乾燥・飢餓等の極限状態を全身性の代謝抑制と低体温により乗り切る驚異的な現象である。ヒトをはじめ多くの哺乳類は冬眠できないが、クマやリスなどの哺乳類は冬眠を行う冬眠動物である。冬眠動物は虚血耐性・肥満耐性・筋廃用萎縮耐性等の性質を備えており、冬眠の分子機構解明は、科学的興味を満たすだけでなく応用可能性も高く、21世紀の生物学に残されたフロンティアである。しかし、その分子機構は未だ殆ど不明である。その一因として、遺伝子操作による実験的検証が容易な冬眠動物が存在しないことが挙げられる。本研究では、冬眠動物シリアンハムスターにゲノム改変技術を適用し有用なレポーターハムスター作出することで、冬眠研究に新しい展開をもたらし、冬眠医学・冬眠創薬分野の創生を狙っている。 研究開始時点では、摘出したシリアンハムスターの受精卵に対して、マウスで成功が報告されているエレクトロポレーション法とCRISPR/Cas9を組み合わせた手法の適用を検討した。しかし、実際に研究をはじめてみると、いくつかの難点の存在が明らかになった。まずこれは既に報告されていたことだが受精卵が光に脆弱である点、また交配用の雌の維持にスペースを要しさらにマウス等と違ってスメアチェックによらないと性周期判定がしにくいが、スメアチェックが想像以上に動物にストレスを与えてしまう、といった点である。これらの問題により、受精卵の継続的安定供給が意外に困難であることが判明した。そこで現在、性周期の容易な判定方法を導入し、かつ大量の受精卵を要さない遺伝子導入方法を検討する方針へと舵を切ったところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H28年度は以下の実験を行った。 1)安定した受精卵の供給を目指して、簡便な性周期判定法の確立を試みた。スメアチェック、膣のインピーダンスチェッカーを検討した。しかし、結果は芳しいものではなかった。 2)以上を踏まえ、別の試みとして、輪回し行動による性周期のモニタリングを試みるべく、輪回し行動解析系を導入し行動モニタリング系を確立したところである。 3)エレクトロポレーションによる受精卵への遺伝子の手技を確立すべく、まずマウスにおいてCRISPR/Cas9法による遺伝子破壊練習を行った。その結果、目的遺伝子を破壊したマウスを得ることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在導入した輪回し行動解析による性周期の容易な判定方法を確立する。さらに、エレクトロポレーション法とCRISPR/Cas9を組み合わせた手法を適用するため、大量の受精卵を要さない導入手法を検討していく。これらの改善により、遺伝子破壊ハムスターおよび冬眠時の遺伝子発現レベルをモニターできるレポーターハムスターの作出を行っていく。
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Causes of Carryover |
当初の予定では、初年度にシリアンハムスターの受精卵への電気穿孔法を確立し、それをもとに遺伝子改変ハムスターを多数作出する予定であった。この過程で大量のオリゴDNAおよびCas9タンパク質の購入に経費を当てる予定であったが、実際には受精卵の脆弱性等によりそこまで本年度は至らなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在、効率的な交配系を樹立したところなので、次年度はこの系を用い、かつ個体への直接的な新規遺伝子導入法を用いることで、昨年度直面した問題を打破できると考えている。その際には、繰り越した分の予算をまず用いて、初年度に行うはずだった実験を行っていきたい。
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