2016 Fiscal Year Research-status Report
マイクロRNAによるOATP輸送体の発現調節機構に基づく薬物療法最適化
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16K15158
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
玉井 郁巳 金沢大学, 薬学系, 教授 (20155237)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中西 猛夫 金沢大学, 薬学系, 准教授 (30541742)
中島 美紀 金沢大学, 薬学系, 教授 (70266162)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | マイクロRNA / 輸送体 / OATP / 消化管 / 筋肉 / 筋毒性 / 発現調節 / 予測マーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
有機アニオン輸送体OATP分子は、作用が強い抗がん薬や長期間投与されるスタチンのように、投与に注意を要する医薬品の体内動態に影響する因子となる。そのため、OATPの輸送活性が何らかの原因で変動した場合、医薬品の動態変動が生じそれに伴って有効性の低下や毒性発現の懸念があるためその評価が重要である。これまでに、OATP上での薬物相互作用、核内受容体による調節、遺伝子多型などが、OATP活性の変動原因として示されてきた。しかし、既存情報のみでは個体間変動などOATPの活性変動を説明できず、OATP基質薬物の動態変動予測の向上が求められる。近年、新しい発現調節因子としてマイクロRNA (miRNA)の重要性が指摘されている。miRNAは標的遺伝子の3’-非翻訳領域に結合して発現を負に制御し、恒常的な、あるいは病態時の遺伝子発現の調節に働くなど、個体間および個体内発現変動因子として働く。輸送体としては、BCRP活性の個人差がmiRNAにより説明される知見もある。また、miRNAは様々な病態あるいは薬物毒性のマーカーとなり、薬物作用をモニターできる可能性もある。さらに、食品中のmiRNAが消化管組織細胞の遺伝子発現に対して作用することを示唆する報告もある。本研究では、消化管に発現するOATP2B1を調節するmiRNAの探索、食品中のmiRNAの消化管輸送体への影響の有無、ならびにOATP基質となるスタチン系薬物が有する筋毒性の予測マーカーとしてのmiRNA探索を行った。その結果、OATP2B1発現調節に働くmiRNAとしてmiR-24の存在を示す結果を得た。食品については果汁中ナノベシクル画分がOATP2B1等を調節し、それがmiRNAである可能性を見出した。さらに筋毒性とともに変動するmiR-145が筋毒性発症予測マーカーとして利用できる可能性についての成果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
消化管組織に発現するOATP2B1は薬物吸収に働く輸送体であるが、その発現調節に働くmiRNAの同定に至ることができた。本輸送体の発現調節に働くmiRNAに関する過去の報告は一切なく、本成果は初めてのmiRNAによる調節ん気候の存在を示すものとして意義のある成果と言える。なお、現在本発見については学術論文を作成している。また、OATP基質となるスタチン系薬物の筋毒性の予測に使用できる可能性のマーカーとしてmiR-145を候補として見出すことができた。これはin vitro培養細胞での結果であるが、ミトコンドリア毒性に着眼し、細胞のアポトーシス誘発に関連するmiRNAを網羅的に解析し、その中から絞り込んだのである。見いだされた最も変動の顕著であったmiR-145は、筋毒性が発症する前に変動することから、本microRNAをモニターすることによりスタチン誘発性筋毒性を未然に防ぐことができる可能性があり、有益な毒性回避に向けた情報として位置づけられる。また、本成果は学術論文として掲載されることが決まっている。食品中microRNAの消化管組織輸送体OATP2B1への影響についてはまだ明確ではないが、microRNAを含む食品中の高分子画分がOATP2B1の発現に影響することから、microRNAの可能性を示唆できた。以上より、当初の目的どおりにOATPの発現やOATP基質薬物の作用に関わるmicroRNAを示唆あるいは同定できた。
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Strategy for Future Research Activity |
In vitroの検討ではあるが、OATP2B1を制御するmicroRNAの一つの同定に至った。この事実はOATP2B1がmicroRNAによる調節を受ける可能性を示唆する。一方、平行した研究成果として、食品中に含まれるナノベシクルの曝露によってOATP2B1の発現変動を引き起こす成果も得られた。即ち、食品中microRNAが消化管組織に発現するOATP2B1の調節に働く可能性がある。今後は、新しい食品による調節機構として食品中のmicroRNAに着目した検討を計画している。食品がmicroRNAを利用してヒト細胞に作用することを示した例はミルク中microRNAを介した母―子の情報伝達に関する可能性が示唆されている程度しかない。本研究成果は新しい食品の作用機構の提示となる可能性を含んでいる。また、現時点までにいられている成果は、主に培養細胞を用いた解析結果である。小腸あるいは筋肉組織由来の細胞を用いた検討であり、これらが実際に生体内でも同様に作用するかが今後の課題である。その実証には臨床検体を用いたり、臨床試験を行ったりする必要があり、成果の裏付けには今後そのような臨床研究が求められる。一方、一つのmicroRNAだけで発現調節が行われたりマーカーになったりすることは考えにくく、他にも影響するあるいはマーカーとなるmicroRNAの存在は十分に可能性がある。今後はさらに幅広く関連マイクロRNAの探索を行い、OATPの発現・活性調節に働く因子を明確にすることが課題である。
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Research Products
(2 results)