2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K15176
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Research Institution | National Defense Medical College |
Principal Investigator |
櫛引 俊宏 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 医学教育部医学科専門課程, 准教授 (30403158)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 拓男 国立研究開発法人理化学研究所, 主任研究員研究室等, 准主任研究員 (40283733)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 細胞生物学 / テラヘルツ波 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、幹細胞にテラヘルツ波を照射して細胞の増殖能や分化能を人為的に制御する新しい技術を開発することである。これまでに光技術による幹細胞分化制御について報告してきたが、光学者の未踏領域であったテラヘルツ波を細胞生物学分野にいち早く適用し、全く新しいテラヘルツバイオロジー技術の確立を目指す。単にテラヘルツ波を照射するだけでは細胞近傍の水分子にテラヘルツ波のエネルギーが吸収されてしまうため、本研究では「メタマテリアル」を利用したテラヘルツ波照射プラットフォームを作製し、細胞へ効率よく確実にテラヘルツ波を照射するシステムを構築する。本研究は、細胞生物学側の研究を担当する研究代表者・櫛引(防衛医大)と光学側の研究を担当する研究分担者・田中(理研)の各々が持つ知識と経験を融合し、新しいテラヘルツ波照射による幹細胞機能制御技術の開発を行う独創的・学際的な研究である。 本年度の研究成果として、テラヘルツ波を発生させるための非線形結晶の1つであるテルル化亜鉛(ZnTe)の細胞適合性を検討した。ZnTeが0.25mg/mL以下の濃度の場合、iPS細胞や骨髄間葉系細胞は未分化状態を維持したままであることを確認した。さらに、細胞の増殖活性に影響がないことをタイムラプス蛍光顕微鏡により確認した。今後は、さらに非線形結晶の細胞親和性を高めるために、結晶表面をコラーゲンやゼラチンなどのタンパク質でコーティングすることを試みる。また、近赤外域の光照射系を作製し、細胞への光照射実験を行い、テラヘルツ波照射系の構築にむけた予備検討を行った。 これらの成果から、次年度はテラヘルツ波がおよぼす細胞への作用を明らかにし、光と細胞のクロストークを理解する新しいテラヘルツバイオロジーを提案したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究開始と同時に、非線形結晶の1つであるテルル化亜鉛(ZnTe)の細胞適合性確認を行った。具体的には、iPS細胞、骨髄間葉系幹細胞または癌細胞の培養溶液中に種々の濃度でZnTe結晶を分散させ、細胞増殖能の評価を細胞のコロニーフォーミングアッセイにより行った。さらに、細胞の代謝活性を評価するために、培養している細胞のミトコンドリア還元酵素の活性をテトラゾリウム塩であるMTTの還元呈色反応により測定した。また、タイムラプス蛍光顕微鏡を用いて細胞周期の解析を行い、各チェックポイントによる細胞周期を確認した。その結果、細胞培養液に分散させたZnTe濃度が0.25mg/mLより大きい場合、いずれの細胞も培養中にコローニーを形成せず、また、ミトコンドリア活性も低下した。しかし、ZnTe濃度が0.25mg/mL以下の場合は、通常増殖培地と変わらない細胞形態を示し、コロニー形成、ミトコンドリア活性や細胞周期の停止も認められなかった。今後は、コラーゲンまたはゼラチンでコーティングした非線形結晶を細胞培養液中に添加し、細胞親和性の向上と細胞機能観察を行う。 さらに、近赤外域の光照射系を作製し、細胞への光照射と細胞応答の解析を行い、テラヘルツ照射系の構築を行う次年度のための予備検討を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、本年度に得られた成果を活かし、細胞近傍に分散させた非線形結晶に対して近赤外短パルスレーザーを種々の条件で照射(テラヘルツ波を発生)し、細胞へ直接テラヘルツ波を照射できる実験系を確立させる。この実験計画が予想通りに進まない場合には、細胞培養容器底面に接着している細胞に対して、培養容器底面外側から直接テラヘルツ波を照射し、経時的に細胞の増殖・細胞周期や分化状態を確認する。 テラヘルツ帯の光を吸収する細胞内光受容体の存在はまだ明らかになっていないため、本研究提案ではシーケンス解析装置を用い、種々の周波数のテラヘルツ波照射後のmRNAおよびnon-coding RNAを含む全トランスクリプトームの全貌を解析する。これらの結果から、テラヘルツ波を用いた幹細胞分化を制御する分子メカニズムを解明し、薬剤開発・再生医療・がん治療などに応用可能な幹細胞制御技術の開発につなげる。
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Causes of Carryover |
テラヘルツ帯の光を吸収する細胞内光受容体の存在はまだ明らかになっていないため、シーケンス解析装置を用い、種々の周波数のテラヘルツ波照射後のmRNAおよびnon-coding RNAを含む遺伝子発現解析を行う予定であった。本年度、研究代表者・櫛引は細胞増殖活性、ミトコンドリア活性や細胞周期解析を優先して行ったため、費用がかかることが予想された遺伝子発現解析を行っていない。また、研究分担者・田中は、レーザーや分光器など既存設備を用いた実験を行ったため、予算の執行はなかった。これらの理由により次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、本年度に得られた成果を活かし、細胞へ直接テラヘルツ波を照射できる実験系を確立させ、経時的に細胞の増殖・細胞周期や分化状態を確認する。また、種々の周波数のテラヘルツ波照射後の遺伝子発現解析を行う。mRNAおよびnon-coding RNAを含む遺伝子発現解析を行い、本研究成果を薬剤開発・再生医療・がん治療などに応用可能な幹細胞制御技術の開発につなげる。
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Research Products
(3 results)