2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K15253
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
齋藤 伸一郎 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (90361625)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 全身性エリトマトーデス / Arl8b / 低分子量Gタンパク質 / 制御性T細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
Toll-like receptor 7(TLR7)は病原体の核酸RNAを認識して活性化し、免疫応答を誘導する。特にウイルスのRNA成分を認識して1型インターフェロンを産生し、抗ウイルス反応を生体に惹起させる。抗ウイルス反応のため1型インターフェロンを大量に産生する細胞は形質細胞様樹状細胞(pDC)であり、病原体からの防御に重要な役割を果たしている。我々はTLR7に特異的に会合して、TLR7の反応を制御している分子を同定した。その分子はライソソームに局在する低分子量G蛋白質であるArl8bであった。Arl8bの遺伝子を改変し、Arl8bの遺伝子発現が全く認められないArl8b Gene Trap(Arl8bGt)マウスを用いて解析するとArl8bGtのpDCはインフルエンザに対して1型インターフェロン産生が顕著に低下した。Arl8bはPLEKHM2と会合してライソソームの順行性輸送に関わっているため、PLEKHM2のノックアウトマウスのpDCで検討すると1型インターフェロンの産生がTLR7依存的に減少していた。このことからArl8bによるTLR7を含んだライソソームの輸送が、1型インターフェロンの産生と関係していることが明らかとなった。この結果はNature communicationに投稿している。さらにTLR7は自己の生体内のRNA成分にも反応して全身性エリテマトーデス(SLE)への関与が報告されている。そのため、Arl8bGtマウスとSLEのモデルマウスであるMRL-lpr とBXSB-Yaaマウスと交配したところ、全くSLEが発症しなかった。さらにプリスタン投与によるSLEの発症モデルにおいてもArl8bGtマウスでSLEは発症しなかった。これらの結果はJournal of Experimental Medicineに投稿準備中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
論文の投稿とreviseの実験に手間取り、予定の実験が遅れている。Arl8bGtマウスとSLEのモデルマウスMRL-lprマウスを交配すると、SLEの発症は殆んど認められなくなることが明らかとなった。脾臓肥大やリンパ節腫脹も著しく抑制されており、全身性の炎症が抑制されていた。MRL-lprマウスはT細胞の細胞死に関わっているFAS遺伝子の変異により、T細胞の死が抑えられ異常なT細胞が著しく増加することが知られている。しかしArl8bGtマウスにおいては異常なT細胞の増強が著しく抑制されていた。その原因を調べると制御性T細胞が野生型に比べて割合が著しく高いことが明らかとなった。SLEのモデルマウスだけでなく、C57BL/6においてもArl8bGtマウスは野生型マウスに比べて制御性T細胞の割合が高いことが明らかになりつつある。さらにもう一つのSLEのモデルマウスBXSB-Yaaマウスにおいても脾臓肥大やリンパ節腫脹が全く認められなかった。このことから、BXSB-Yaaマウスにおいても制御性T細胞の著しい増加があるものと考えられる。さらにSLEのモデルマウス以外でT細胞が関わる自己免疫疾患モデルの実験的自己免疫性脳脊髄炎でどうなのかも検討する予定である。我々はMRL-lprマウスにおいて野生型マウスでは週齢が進むとともに制御性T細胞の割合が減少することを認めた。しかし、Arl8bGtマウスでは週齢が進んでも制御性T細胞は殆んど減少しないことが明らかになりつつある。Arl8bGtマウスにおける制御性T細胞の機能に関してはこれから検討予定である。機能に違いが認められた場合Arl8bGtの制御性T細胞の遺伝子発現を野生型の制御性T細胞と比較する。さらにArl8bに会合するT細胞内の分子を同定し、Arl8bが制御性T細胞を調節する機構を明らかにする予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
MRL-lprマウスは通常異常なT細胞が増強して炎症を引き起こす。しかし、Arl8bGtマウスにおいては異常なT細胞の増強が非常に抑制されている。そして、Arl8bGtにおいて制御性T細胞が著しく増加していた。我々はTLR7に特異的に会合し、TLR7の機能を調節しているArl8bがTLR7以外の受容体も制御している可能性を考えている。可能性の高い受容体はT細胞受容体(TCR)、またはIL-2受容体、TGF-beta受容体である。それらの受容体とArl8bは会合するのかを検討する。さらに、Arl8bに特異的に会合する分子を同定するために、Arl8bを免疫沈降できる抗体を樹立する必要がある。我々はArl8bに対するモノクローナル抗体の樹立を試みる。Arl8bGtの制御性T細胞は野生型のマウスに比べて増強している。そのため、Arl8bGtにおける制御性T細胞の機能を検討する。他のSLEのモデルマウスについてはBXSB-Yaaマウスを研究している。BXSB-Yaaマウスと交配したArl8bGtマウスの脾臓肥大やリンパ節腫脹が全く起こっていない。そのため、制御性T細胞の解析もこれから行う予定である。加えてSLE以外の自己免疫疾患モデルについても検討を行う。さらにArl8bGtマウスの制御性T細胞の遺伝子発現については野生型の制御性T細胞との違いを明らかにする予定である。Arl8bGtマウスにおいて形質細胞様樹状細胞(pDC)の機能が著しく低下している。そして、pDCが制御性T細胞を制御している可能性があるとの報告も存在するため、Arl8bGtマウスのpDCと野生型マウスのpDCの機能を解析する。そして、Arl8bの発現を無くしたマウスは制御性T細胞が増強しているが、活性化型のArl8bを発現させた場合に制御性T細胞が減少して免疫の異常が起こるのかノックインマウスを作製して検討する。
|
Causes of Carryover |
一つの論文をnature、ScienceやCellに投稿してreviseの実験をしたが通らず、時間と手間をかけてしまい2から3年を棒に振ったかたちとなった。このArl8bの一つ目の論文の投稿とreviseの実験のために挑戦的萌芽の実験計画から遅れてしまっている。そのため28年度にすべき実験のいくつかを29年度に行うための費用と人件費、活性化型のArl8bのノックインマウス作製の費用とその解析の費用を次年度未使用のものとして残した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
この研究計画を実施するために実験補助員を雇っているので、その費用がかかる。29年度に行う実験は、Arl8bGtマウスを用いて制御性T細胞の機能を解析する。Arl8bに会合する分子についての解析を行う実験をする。Arl8bに会合する受容体に関しては予想される受容体を免疫沈降して共沈実験を行う。また免疫沈降できるArl8bに対する抗体も樹立予定であり、その抗体を用いて液体クロマトグラフィー質量分析にかけて解析する。これら実験だけでも20万円以上かかる可能性がある。さらに活性化型のArl8bのノックインマウスを作製して維持するのに20万円位かかる。
|
Research Products
(5 results)