2017 Fiscal Year Research-status Report
発がんに関与する融合遺伝子形成における細胞融合の役割
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16K15262
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
田島 陽一 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 研究員 (00300955)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 細胞融合 / 融合遺伝子 / dormancy / 癌不均一性 / 生体幹細胞 / 癌ゲノム |
Outline of Annual Research Achievements |
がんは遺伝子変異の蓄積やゲノム不安定性により生じることが知られている。がん細胞はゲノム不安定性によりゲノム配列の逆位や挿入、転座などが起こりやすく、複数の遺伝子が融合し、稀にドライバー変異となる融合遺伝子が形成させる。代表的なドライバー融合遺伝子はALKキナーゼ融合遺伝子で、恒常的にチロシンキナーゼが活性化し、がん細胞の増殖を刺激する作用を持つ。 代表者は、間葉系幹細胞(MSC)とがん前駆細胞との細胞融合がゲノム不安定を引き起こし、最終的に融合遺伝子形成に関与するかについて検討した。MSCは組織修復を行う細胞で、がん組織が形成されると、骨髄などから動員され、がん組織に浸潤し、集積する性質を持つ。正常ではMSCとがん前駆細胞との細胞融合は起こらないが、慢性炎症環境下や多くの液性因子やエクソソームなど存在する状況下では、融合細胞が形成される可能性が以前より報告されている。 前年度にMSCと膀胱癌細胞UMUC-3との人工的な細胞融合を行い、11種類のハイブリッドを作製した。核型解析の結果、MSCの染色体数は88本、UMUC-3は69本、ハイブリッドは細胞ごとに染色体数にばらつきがあり、多いものでは150本を超え、染色体数の不安定性を示した。さらに、親細胞とハイブリッド11種類についてRNA-seq解析を行い、SOAPfuseによる融合遺伝子の探索を行った。その結果、UMUC-3とハイブリッドに新規を含め10種類以上の融合遺伝子を見出し、その内幾つかはRT-PCRおよびPCR産物のシークエンスにより発現が確認できた。ハイブリッドは、SCIDマウスやヌードマウスの体内に移植すると肺に腫瘍を形成するので、ハイブリッドの腫瘍形成能と融合遺伝子の関係について解析を継続して行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
代表者は、融合因子(VSV-G等のウイルス外殻蛋白質)を用いて、MSCとUMUC-3の細胞融合を行い、増殖可能なハイブリッドを樹立した。RNA-seqによる融合遺伝子の探索を行ったところ、UMUC-3とハイブリッドのRNAに新規を含め10種類以上の融合遺伝子を見出し、そのうちの幾つかは融合遺伝子の発現を確認した。現在、融合遺伝子の機能について解析を行っている。さらに、ハイブリッド株の腫瘍形成能をヌードマウスによる皮下移植によりを検討したところ、早期(移植後1~2ヶ月)に腫瘍形成する株から、腫瘍形成が遅延したいわゆる休眠性(dormancy)を示す株まで存在していた。 さらに、dormancyを示すハイブリッド細胞由来の皮下腫瘍において増殖の速い細胞と遅い細胞とが混在する腫瘍不均一性を示したので、シングルセルによるRNA-seq解析の必要性が生じた。現在、シングルセルレベルでdormantがん細胞と増殖がん細胞を区別するマーカーを探索中である。 さらに代表者は、生体内でがん細胞と体細胞との細胞融合が実際に起きるかを検証するために、Creリコンビナーゼ発現ヌードマウス(Cre-ヌードマウス)を用いて検討を行っている。loxP-STOP-loxP-GFP (mCherry)コンストラクトを発現させた数種のヒト癌細胞を樹立し、Cre-ヌードマウスに静注、腹腔、皮下移植を行っている。ヌードマウス由来のCreリコンビナーゼ細胞と癌細胞が融合すれば、蛍光蛋白質が発現されるので、in vivoでの細胞融合が証明できる。この方法で蛍光蛋白質を発現した腫瘍が単離できれば、シングルRNA-seq解析によりがん細胞と融合したパートナー細胞の同定や細胞融合したがん細胞としないがん細胞の違いが解析でき、細胞融合の役割を詳細に解析できる。現在、使用できるCre-ヌードマウスの数が少ないので、計画が少し遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
新規融合遺伝子の解析: 今回単離した新規融合遺伝子の構造、発現および機能を検討する。最初に染色体の上でのブレイクポイントの決定、融合遺伝子全長クローンの単離、細胞内での局在等を明らかにする。次にがん化していないNIH3T3細胞に新規融合遺伝子を遺伝子導入して、NIH3T3ががん化するかついて検討する。今回の新規融合遺伝子は核蛋白質と融合したものなので、特定の遺伝子の発現調節に関与する可能性が考えられる。そこで、融合遺伝子を強制発現させた細胞とコントロール細胞で発現解析を行い、特定の遺伝子の発現が変化するかを検討する。 in vivoでのがん細胞と体細胞の細胞融合の証明: 当初の計画では、Cre-ヌードマウスとCre依存的蛍光発現がん細胞による生体内での細胞融合を証明する予定であったが、Cre-ヌードマウスの個体数が揃わない状況が続いたので、代替案としてGFP発現MSCとmCherry発現がん細胞のミックスをヌードマウスの体内に移植して、マウス体内で細胞融合が起きるか並行して行う。代替案は生体内での細胞融合を完全に証明することはできないので、当初の計画を実施出来るように、Cre-ヌードマウスの確保に努力する。 休眠がん細胞と覚醒がん細胞の違い: ハイブリッドHB1_6細胞はヌードマウスの皮下移植を行うと6ヶ月以上皮下腫瘍を作らないケースとそれよりも早く腫瘍を作るケースがある。HB1_6の核型解析でも細胞ごとに染色体数はバラバラで単一の集団ではない。そこで、HB1_6由来の皮下腫瘍をシングルセルRNA-seq解析を行い、休眠がん細胞と覚醒がん細胞のトランスクリプトーム解析を行い、夫々の特徴的な遺伝子を単離し、さらに夫々の細胞を単離できるバイオマーカーを探索する。
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Causes of Carryover |
高価な試薬やヌードマウスの購入は別の研究費から捻出でき、物品費が抑えられた。国際学会に行かなかったので、旅費が抑えられた。 使用計画としては、次世代シークエンス解析に必要な試薬の購入、動物実験用のヌードマウスやSCIDマウスの購入などである。さらに、国内の学会参加費および旅費を計上する。
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