2016 Fiscal Year Research-status Report
免疫記憶中枢をターゲットとした宿主の排菌機構を回避する病原戦略
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16K15272
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
高屋 明子 千葉大学, 大学院薬学研究院, 准教授 (80334217)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | IgGプラズマ細胞 / 骨髄 / サルモネラ / 記憶免疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、サルモネラがマウス感染初期において免疫記憶をつかさどる骨髄リンパ球を顕著に減少させることを見出しており、本年度は特にプラズマ細胞制御について解析した。サルモネラ弱毒株をマウスに投与すると、骨髄のIgGプラズマ細胞が減少したが、骨髄IgMプラズマ細胞や脾臓のIgG/IgMプラズマ細胞数は影響されなかった。このとき、弱毒サルモネラ感染マウスの血中IgG量は非感染マウスに比べて有意に減少したものの、IgM量は同等であった。このことから、サルモネラ感染により骨髄IgGプラズマ細胞が特異的に障害されることが示唆された。 骨髄IgGプラズマ細胞障害はサルモネラ生菌を除去した培養上清を投与しても誘導された。又、TLR活性化因子であるフラジェリン及びLPSは関与しないことを示唆する結果を得た。そこでサルモネラ因子を同定するため、培養上清を硫安沈殿及び陰イオンクロマトグラムにより分画した。障害活性が認められたフラクションに含まれる蛋白質を同定し、6種の遺伝子破壊株を作製した。このうち、遺伝子Xを欠損させた株の上清を投与すると、骨髄内IgGプラズマ細胞障害はみられなかった。 サルモネラ弱毒株はマウスに感染後、30日前後、脾臓に生存できる。弱毒株感染マウスに感染後21日で強毒株を感染させると、マウスは斃死せず生存できるが、強毒株を脾臓から完全に排除することはできない。一方、遺伝子Xを欠損させた弱毒株による同様の実験では強毒株数が有意に減少した。更に、サルモネラ蛋白質に対するIgG量は遺伝子X欠損株感染マウスで顕著に増加した。以上より、サルモネラは遺伝子Xから産生する蛋白質を介してIgGプラズマ細胞の障害、更には自身を認識するIgG産生を抑制する機構を有することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、骨髄IgGプラズマ細胞減少に関与する(1)サルモネラの因子と(2)宿主因子を同定することを目指した。(1)培養上清解析、遺伝子組み換え体の構築を経て、サルモネラ因子として遺伝子Xを同定することができた。(2)宿主因子を同定するため、IgGプラズマ細胞の維持に関与する細胞に着目し、既知の因子について検討を始めたが、直接の関与ではない可能性を示す結果を得た。しかしながら、(1)のタンパク質を解析した結果、いくつかの宿主因子候補を得られた。そのため、研究課題の計画についてはおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
【1】サルモネラ因子Xによる骨髄リンパ球の制御の分子機構:骨髄のプラズマ細胞の維持にはストローマ細胞が関与する。本年度同定したサルモネラ因子Xは非常に大きな蛋白質であり、この中に宿主細胞の接着因子と類似のアミノ酸配列が2カ所に見出された。このことから、骨髄内IgGプラズマ細胞はこれらの接着因子を介してストローマ細胞に結合していること、更に、IgMプラズマ細胞維持に関わるストローマ細胞にはこれらの因子が発現していないという可能性を考えている。この仮説に沿って、(1)因子Xの組換え蛋白質及びペプチドによりプラズマ細胞障害誘導がおこるか調べる(2)接着因子の関与を免疫染色法により調べる(3)(2)の結果を得られたらこの因子を指標にストローマ細胞を選別し、遺伝子発現を解析することで、詳細な分子機構を調べる。 【2】サルモネラ遺伝子X欠損株の宿主体内動態の解析:サルモネラ遺伝子X欠損を導入した株はワクチン効果があがっていることから、ワクチン株改良に優良な情報を与える可能性が考えられる。そこで、この株のサルモネラ病原性に関わる様々な性状を解析する。また、他の弱毒サルモネラと組み合わせたときの成果についても検討する。 又、サルモネラが感染する細胞をGFP発現サルモネラを用いて解析し、ワクチン株を感染させた宿主において、これら細胞の変化についても解析する。
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Causes of Carryover |
宿主因子を同定するため、RNA-seqを予定していたが、当初計画していた細胞のRNA-seqでは同定が困難であることが明らかとなり、候補の細胞を探索した。この同定が年度末となったため、次年度に繰り越す予定である。 また、当初動物実験については海外の研究協力者に依頼する予定であったが、研究の進行状況を鑑みたところ、申請者の所属機関でも行う必要が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
(1)RNA-seqによる遺伝子発現解析:骨髄リンパ球維持に関わるストローマ細胞の接着因子を同定し、それを指標に細胞を分取する。サルモネラ感染においてこれら因子の発現が変化するか、又、その変化をもたらす因子についての同定を目指す。 (2)サルモネラ因子X欠損株の病原性について、マウスを用いた感染実験を行い、マウスの生死、また、サルモネラが感染する細胞動態についてフローサイトメトリー等を用いて調べる。
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