2016 Fiscal Year Research-status Report
熱帯性コオロギ感染モデルを用いた細菌の温度依存性病原性発動メカニズムの解明
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16K15274
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
垣内 力 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (60420238)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | フタホシコオロギ / 感染モデル / 無脊椎動物 / リステリア / 緑膿菌 / 黄色ブドウ球菌 / 温度 |
Outline of Annual Research Achievements |
細菌の感染プロセスを理解する上で、感染モデル動物が必要である。無脊椎動物を用いた細菌感染モデルは多数の個体数を扱うことが可能であるため、細菌の遺伝子欠損株ライブラリーから病原性低下株を探索し、新しい病原性因子を同定する上で有効である。しかしながら、無脊椎動物の感染モデルとして利用されてきた、線虫、ショウジョウバエ、カイコは、ヒトの体温である37℃において長時間生存することができず、ヒトの感染症がおきる温度での病原性細菌の感染プロセスを明らかにするためには適当でない。そこで、我々は直翅目昆虫であるフタホシコオロギに着目した。フタホシコオロギは熱帯、亜熱帯域に生息する昆虫であるため、高温で生存することが可能である。さらに、世界中で爬虫類、両生類のエサとして養殖されているために、低コストで多数の個体を入手することができる。本研究において、我々はフタホシコオロギを用いて、ヒトに対する病原性細菌の感染モデルの確立を試みた。 黄色ブドウ球菌、リステリア、または緑膿菌を体液中に注射されたコオロギは、24時間以内に死亡した。コオロギの黄色ブドウ球菌または緑膿菌に対する感受性は、37℃と27℃の間で変化しなかった。一方、37℃において病原性因子の発現量が増加することが知られるリステリア菌に対するコオロギの感受性は、27℃に比べて37℃において上昇した。さらに、黄色ブドウ球菌の病原性に必要なcvfA、agr、srtA遺伝子の欠損株、ならびに、リステリアの病原性遺伝子群をコードするLIPI-1領域の欠損株は、それらの親株に比較してコオロギに対する殺傷活性が低下していた。 以上の結果は、フタホシコオロギが37℃と27℃のふたつの温度条件においてヒト病原性細菌の感染モデル動物として利用可能であり、細菌の温度依存性の病原性システムの解明に有効であることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究において我々は、ヒト病原性細菌がフタホシコオロギを感染死させるか、ならびに、高温条件がコオロギの感染死を促進するかについて検討を行った。 ヒト病原性細菌である黄色ブドウ球菌と緑膿菌がフタホシコオロギを感染死させるかを検討した。黄色ブドウ球菌、緑膿菌をコオロギの腹部から体液中に注射すると、コオロギは24時間以内に死亡した。このコオロギの死亡は、注射した細菌の用量依存的であった。コオロギの体液中に注射した緑膿菌または黄色ブドウ球菌は、時間の経過に伴ってコオロギの体液中で増殖することを明らかとした。さらに、これらの細菌によるコオロギの死亡は、抗生物質の注射によって抑制された。以上の結果は、フタホシコオロギが黄色ブドウ球菌と緑膿菌によって感染死することを示唆している。 37℃と27℃において、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、リステリアのコオロギに対する半数致死容量を求めた。黄色ブドウ球菌と緑膿菌のコオロギに対する半数致死容量は37℃と27℃の間で変化しない一方で、リステリアのコオロギに対する半数致死容量は27℃に比べて37℃において減少することが判明した。この結果は黄色ブドウ球菌と緑膿菌に対するコオロギの感受性が高温と低温の間で変化しないが、リステリアに対するコオロギの感受性は高温で上昇することを示唆している。すなわち、コオロギは37℃において全ての病原体に感受性になるわけではなく、温度依存の病原性発現システムを有する特定の病原体に対して感受性になると推定される。 以上の研究進捗状況から、本研究が計画に従って順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はコオロギ感染モデルがヒト病原性細菌だけでなく、ヒト病原性真菌に対しても適用できるか検討する。また、リステリアによるコオロギの感染死が高温条件で増強される分子メカニズムについて、リステリアの遺伝子欠損株を用いて明らかとする。 1)ヒト病原性真菌である、カンジダ菌とクリプトコックス菌がフタホシコオロギを感染死させるか、検討する。コオロギの真菌に対する感受性が高温条件で上昇するか検討する。高温条件で感受性が上昇した場合には、その原因となる真菌の温度依存の変化を分子レベルで明らかにする。 2)ヒト病原性真菌のほ乳動物に対する病原性因子がコオロギに対する殺傷能力に対して必要であるか明らかにする。クリプトコックス菌のシグナル伝達経路に必要な因子群の欠損株を検討する予定である。 3)リステリアのLIP-1領域にコードされる遺伝子群について、それぞれの遺伝子欠損株を作出する。遺伝子欠損株が温度依存性のコオロギ殺傷活性を失うかについて、高温と低温の両条件において、コオロギ殺傷活性を求めて検討する。
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Causes of Carryover |
リステリアの温度依存性の病原性発現機構を解析するための研究が遅延しており、その解析のための費用を次年度に使用するため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
リステリアの遺伝子欠損株の作出、ならびに真菌のコオロギ感染モデルの確立に使用する。リステリア遺伝子のターゲティングベクター作出のための遺伝子工学試薬、リステリアと真菌の培養のための培地類、コオロギ生体、コオロギ飼育器具の購入費用を計上する。
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Research Products
(4 results)